気分転換を兼ねて、メトロポリタン美術館で開催されている「China: Through The Looking Glass」展を見に行ってきました。メトロポリタン美術館は比較的近所にあることもあり、何だかんだ数ヶ月に一度程度は行くのですが、所蔵品がとてつもなく多い上に頻繁に新しいエキシビションが開催されるので、まだ全然把握した気になれない位にスケールの大きな美術館です。
この美術館に関して個人的に嬉しいところは、日本の美術品のコレクションも非常に充実している点。屏風、浮世絵などおなじみの古美術に加えて、若干の現代美術、そして日本の庭園をイメージしたスペースまで用意されています。そして極めつけは武器・甲冑コーナーで、イタリア、ドイツ、フランスなどの中世の甲冑と並んで展示されている日本の鎧・兜の所蔵ボリュームの豊富さと豪華さに圧倒されます。僕はこの美術館を訪れる際、最後は必ずこのコーナーに立ち寄って、遥か昔の日本の甲冑師達の職人芸を堪能することにしているんですね。
そうそう、今回はChina展の話をするのでした。このエキシビションのコンセプトを端的に説明すれば、中国のプロパーな芸術を紹介することではなくて、服飾/ファッションを軸に「西洋が見た(鏡の中の)中国」を紹介することです(タイトルは恐らくルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」から借用したのでしょう)。西洋がどのように中国の服飾、美術の持つ美意識に魅了され、己の創作活動に影響を与えてきたか、それを20世紀後半から現代に至るまでの西洋人トップ・デザイナー達の作品を中心に紹介することで紐解いていく、といった主旨のもの。ですので、ここで主役となる(作品群を手掛けた)のはサンローランであり、ガリアーノであり、ルブタンであり、マックイーンであり…ということになります。この企画展にはメトロポリタン美術館のコスチューム・インスティチュートとアジア美術部門がコラボレーションしていることに加えて、Vogueを出版するコンデナスト(すなわちアナ・ウィンター)が多大な協力をしているということもあってか、普段は見る機会の少ない、彼らのデザインした「中国ナイズドされた」オートクチュールやアヴァンギャルドなレディメイド服の秘蔵コレクションが数多く展示されています。
会場に入って驚かされたのは、作品の豪華さとクオリティの高さのみならず、その演出、プレゼンテーション(見せ方、提示の仕方)の気合いの入りようです。何度も足を運んでいてただでさえその贅沢ぶりに圧倒される部分の多いメトロポリタン美術館のエキシビションの中にあって、このスペースは普段のそれとは比較にならない位に輪をかけて豪勢で華やか、そしてスタイリッシュなショーアップがなされていました。
マネキン一つ一つの頭部のデコレーション&スタイリング(変な表現ですが)のクオリティがずば抜けて高いので、これは相当なプロが手掛けたなと思ったら全てStephen Jones(スティーブン・ジョーンズ)の手によるものだったり、いつも立ち寄る日本庭園(のはずの庭園)がライトアップされ中国の宮殿風に様変わりしていたり、大きなスクリーンが各所に設置され映画「Hero」や「ラスト・エンペラー」、フレッド・アステアが中国風の出で立ちで踊るミュージカル映画「Ziegfeld Follies(ジーグフェルド・フォリーズ)」が上映されていたりと、とにかく「見せ方」一つ一つがアートというよりもエンタテインメント的、映画的で、普段服飾/アクセサリーや中国文化にさほど興味のない観客ですら瞬時に引き込む工夫、仕掛けが尽くされている。それもそのはず、この企画展の展示ディレクション/美術監督(”Artistic Director”)は映画監督ウォン・カーウァイが担当しているのでした。
こりゃ人集まって当然だわ(笑)。この会場を抜けて普段見慣れた、いぶし銀のごとくドシブな甲冑の群れ達と再会する時点まで、美術館にいたことを忘れてしまうほどに異次元な空間を提供していました。
この企画の意図する部分とその着地点に関しては、真面目に考察をすれば幾らでも考察出来るでしょう。このある意味テーマパーク的な演出や、これらファッション・シューティング&映画撮影のプロップ的な趣の強いアイテム群から、果たして「西洋が見た中国」という美術史観的な(深遠な)テーマの核心部分をどれだけ紐解けるのか等、疑問に思う方や違和感を感じる方もいるかと思います。しかしながら、観る者を直感的に、かつ即座に圧倒させるプレゼンテーション力とコレクション力、それを実現させる資金面・人脈面でのオーガナイズ力、これらの高いポテンシャルを前に、斜に構えた紋切り型の批評や問題提起はするだけ野暮というもの。そんな凄み、説得力を感じました。
ヨーロッパからアジアから傑出した人材を集めながらも、これが「舞台」として実現するのはやはりアメリカ、それもNYしか考えられないという理由は、僕もここに2年近く住んでみて何となく分かってきたような気がします(これに関してはまたの機会に)。それと同時に、もし題材である中国を日本にそっくり置き換えてこういったエキシビション(「西洋服飾史から見た日本」)を行った場合はどういったものになるのか、またそれ以前にそういったものは果たして実現可能なのか等…、甲冑コーナーに鎮座する、戦国時代を戦い抜いたこれまたドシブな足利尊氏の兜を眺めながらしばし沈思黙考、色々と考えを巡らせてはみたのでした。
このエキシビションは8/16まで行われているようですので、NYを訪れる機会がある方は是非足を運んでみて下さい。
最後にDark Model “Revenge Seeker (Piano Intro Mix)” を紹介して終わります。このオリジナル・バージョンはBandcampで発売されていますが、このミックスはまだ未リリースです。Findings読者の皆さんのために特別アップということで、どうぞお楽しみ下さい!