MER最新プロジェクト完了
2021年ももう二か月が過ぎてしまいましたね。僕は昨年末から自分のレーベルModel Electronic Records(MER)の制作にかかりきりで、昨日ようやくパッケージの製造会社への納品を終えたところです。このプロジェクトのためにここ15年位の間に制作したほぼ全ての楽曲のデータをチェックして編集、再レコーディング&ミックスダウンを行う必要があったのですが、この気が遠くなるような作業を敢行したお陰で、最終的には合計500以上のトラックの新しいミックス・バージョンが生まれました。
アーティストとして録音物/創作物のアウトプットが増えることももちろん嬉しいのですが、収穫としてさらに大きかったのは、数百曲の制作過程を一気に振り返ることでレーベル設立以降の自分が歩んできた道のりを再認識することが出来たことです。3つのプロジェクトのリリースしかしないというミニマルなアプローチを採っているとはいえ、アイデアの面でも資金の面でも共に枯渇することなく創作とリリース活動を続けられているのは、リスナーの皆さんはもちろんのこと、僕の音楽をテレビや映画等のメディアで使って下さっているユーザー、すなわちプロの目利きならぬ「耳利き」の方達の存在が大きいと思っています。
音楽が「誰かの役に立つ」時
自分のプロジェクトのための創作活動を第一に考えたいので、僕は特定のCMや映画のために楽曲を作り下ろして提供するという仕事は長らくやっていませんが、定期的にTopicsのページで紹介しているように、幸いにもアメリカや日本のテレビ番組や映画、トレイラー、ダンスシーンなどで僕の音楽を使って頂く機会に恵まれています。その「使用例」を僕が自分の目で確認できるチャンスは少ないものの、それでも年間数十から百種類位の事例には遭遇します。
僕にとって自分の音楽が使われた事例を見ることはただ楽しいだけではなく、自分の音楽が映像や人の動きとどのように融合するのかや、僕の音楽をチョイスしたミュージック・スーパーバイザーやエディターの方たちがどのような意図でその曲をその映像に載せ、「音楽がどう機能し、映像に貢献したのか」を学べる、貴重なケーススタディの機会にもなっているんですね。音楽と機能という言葉は相性の悪い組み合わせに見えますが、映像に音楽をシンクロさせるという行為は作り手が何らかの演出的な効果や意図を込めているからこそ行われるのであって、単に「雰囲気的に合うから」という理由でプロのエディターが音楽を選ぶことはありません(どんな尺であっても音楽には必ず使用料が発生してしまいますしね)。
使われた意図を解読する
街頭や店内のBGM、ラジオ、ストリーミング、映画、テレビ番組、CM、アニメ、ゲーム、ウェブ動画、ダンス、パーティー、ヨガ、それぞれの状況下で流れている音楽にはそれぞれの意味や効果、そして物語があります。様々なシチュエーションで音楽が果たしている役割や必然性を解読してみる。そういったトレーニングを積んでおくと、ただ漫然と思い付きで曲を作るのではなく目的意識を持って曲を作る習慣が身に付きます。結果的に時間の無駄も省けるという副次的な効果もあります。僕のように自分の資金と時間配分で勝手気ままに創作が出来る環境だからこそ、この「目的と機能」を自覚することはとても大事なのではないかと考えています。
クリエイティブな自由や冒険心、反骨精神を失うことなく、かといって決してアーティスト的な自己満足や自己顕示欲の落とし穴にはまることもなく、現実社会で「存在意義がある音楽」を創り続けること。音楽が持つ「効く、貢献する」力(ポテンシャル)を作り手として決して無駄にしないこと。そんなことを考えながら今回の作業に臨んでいました。
こちらは長く厳しかった冬もようやく終わりに差し掛かりました。春の陽気の到来に期待しつつ、早速次の制作に取り掛かります!