アナログレコード復活を通り越し、カセットテープや8トラックがクールだというローテック礼賛が沸き起こる一方で、新しい集客&集金装置としてのEDMシーンが活況を呈しています。接点がなさそうでいてどちらも「脱・CDビジネス」が根っこにあるとも言える、この二つのトレンドについて考察してみます。
暦は早くも9月、NYに来てから丁度1年が経ちました。アメリカの社会や文化に関してはそれなりに気づきや驚きの多い1年でしたが、仕事や健康などに関しては日本にいた時と変わりなく生活できていることを嬉しく思っています。Dark Modelのデビュー・アルバムを制作・リリースし、各方面から良い反応も頂けたので、まずは上々といったところでしょうか。
今日はこの半年間行ってきた、アメリカでのDark Modelのプロモーション作業を通して様々な人、現象、そして音楽シーンに触れる中で気づいたこと、考えたことを中心にお話しします。
Contents
アナログ・レコード、そしてカセットテープ!までが今はクール
アルバムリリースと言えば、先日受けたUnder the Gun Reviewのインタビューで「このアルバムのアナログ・レコード(=ヴァイナル)をリリースする予定はありますか?」という質問を受けたのが印象的でした。日本でもアナログ復活のニュースを時折目にされることがあるかと思いますが、アメリカの一部のレーベルの中には、CDはさておきヴァイナルの発売・流通を中心に据えてリリース計画を考えるのが既に常識になっている向きすらあります。それどころか、ブルックリン周辺のヒップスターやインディー系バンド達の間では、この数年はカセットテープ(!)でのアルバム・リリースがトレンドになっていて、さらには、日本ではカラオケなどで使われていた8トラック(通称「8トラ」)のテープで昔のアルバムを聴くのがクール、などという、若干本末転倒とも言える「ローファイ/ローテック競争」が起こっています(ヴァイナルまでは僕も理解できるし、自分も検討の余地はあるかと思っていますが)。
先日もあるブルックリン出身のアーティストが「リアルなヒップスターはiPodじゃなくてウォークマンを持ち歩くのさ」とコメントしているのに遭遇しましたが、いやいやそれを言うならゲットー・ブラスター(Ghetto BlasterもしくはBoom Box。80sに流行した巨大ラジカセのこと)を肩で担ぐのが最低限の流儀だろうし、出来ればオープンリールでもランドセル式に背負って、その気合の入り加減、覚悟のほどを見せて欲しいものだと思った次第です(笑)。”How low can you go?” ならぬ、さしずめ “How low-tech can you go?” といった感じでしょうか。
「先祖返り」現象の背景
iTunesの低迷が囁かれ、Spotify, Beats MusicなどのストリーミングサービスやSoundCloud, Youtube で音楽を聴く習慣が定着してしまった昨今、レーベルやアーティストの関心がよりキャッシュの動くフィジカル(=モノ)売りにシフトしていること、デジタル化の波を受けた後も果敢に健闘・健在している全国の数多くのヴァイナル・レコードショップからのラブコールがあること、そしてリスナーの間で周期的に起こるハイテクへの反動としてのローファイ/ローテック・トレンド(“throwback”「先祖返り」という言葉をよく耳にします)などが相まって、こうした現象にうねりを起こしているように感じます。
これら全てのメディアをリアルタイムで通過してきた、また自宅に所有していた1万枚以上のヴァイナルとCD、カセットテープ、DAT、MDなどを全て処分、デジタル化してスーツケース2つでアメリカに渡ってきたスーパー断捨離派(?)の自分としては、モノを所有することで生まれるチャンス・ロスやデメリットも理解しているので、この決して合理的とは言えないトレンドに関しては基本的に傍観者のスタンスです。ただ、今回アルバムのリリース作業で数多くのレコードショップを調べている中で、この「先祖返り振り」がアメリカの(一部の)音楽業界では想像以上にインパクトを持ったトレンドであることは無視できない事実だと感じました。実際、5月のリリース時に丁度 Jack White(ジャック・ホワイト), The Black Keys(ザ・ブラック・キーズ), Lana Del Rey(ラナ・デル・レイ)などのメジャー・アーティストがヴァイナルでのリリースをプッシュしていたこともあり、レコードショップの方も自信を取り戻しているさまを目の当たりにしました(それが功を奏して、Jack Whiteのアルバムは記録的なセールスを達成したとのことです(Forbes 記事))。
娯楽・レジャー産業の新たな「集客・人材育成・投資」ミックス・モデルとしてのEDM
ところで、上のような動きと昨今のアメリカでのEDMブームはどう関係があるのかというと、実は今のところはさほど関係がありません。EDMというのは、実際のところは特定の音楽を指すジャンル、パターン、トレンドという側面よりも、この10年~20年以上に渡って、もしくはある時から「脱レコード(円盤だけでなく録音物)ビジネス」の使命を背負いながら業界の一部の人間と投資家達が発展・軌道修正させてきた、イベント開発(「場」と「ヒト」)やアーティスト育成&マネジメント(「ヒト、スターシステム」)を核とする、「娯楽・レジャー産業ミックス」の集客モデル/装置、人々の消費行動に着目したマーケティングの仕組み/仕掛けの完成形としての側面の方が大きいと捉えています(そもそも「エレクトロニック」で「ダンス・ミュージック」な音楽自体は、日本でもずっと前から存在しますから)。
ここ最近では、EDMシーンの音楽面で中心的な役割を果たしてきたレーベルやマネジメント会社が、ディープ・ハウス、Nu Disco的な方向に関心をシフトさせていますが、これはEDMで完成させた大きな「器(ビジネスモデル)」に少し「先祖返り」的な要素、もしくは「ひねり」「深味」を入れてリフレッシュさせつつ、そのビジネスモデルの規模の維持・拡大を図ろうとしているということだと思います(イビサの発展過程をよく知る彼等には難しいことではないはず)。EDMというのは、ジャンル用語というよりも、さらに言えば「音楽産業」というよりも、そういった産業ミックスのパラダイムシフトを推し進めるための起爆剤を意味するコードネームだったと解釈した方がしっくり来るのではないでしょうか。
音楽以前の、商慣習や人々の余暇行動パターンの違い
なので、例えば「日本ではEDMが流行らない」という説がもしあるとすれば、それはある特定の音楽ジャンルが日本のリスナーに浸透しにくいという理由ももちろんあれど、それよりも上記の様なヨーロッパ&アメリカで成長した総合レジャー+資本投資の「型(フレームワーク)」が日本の現在のレジャーもしくは(不動産投資を含めた)リゾート産業の商慣習や、余暇の過ごし方を含めた人々の行動パターン、さらには投資マインドとそのままでは馴染みにくい、もしくは新規参入しにくいために上陸しきれていない、という側面で考えると、納得が行きやすいかと思います。万が一EDMビジネスが日本にそのまま馴染むチャンスがあったとすれば、それは1985年から90年辺りまででしょう、と荒唐無稽な話になりますね(笑)。
娯楽産業に関しては日本も非常に独自に、そして複雑に成熟していますし、逆に日本で大成功しているイベントやショー、集客装置をそのまま海外に輸出するのは限りなく難しい。音楽ビジネスもレコードビジネスから脱却しようとすると、そういった(人々の、ひいてはそれぞれの国々の人々の)消費行動の壁、習慣の壁を乗り越えなくてはならないという別の次元の課題が生じます。そう考えると、EDMビジネスの様に野心的でアグレッシブなパラダイムシフトに比べて、冒頭で書いた「ローテック先祖返り」のトレンドは旧来のレコードビジネスの手法に根ざした、随分とリスクの少ない、牧歌的な現象に見えてきますね。
最後に先日制作した新曲”The Diver”と、YoutubeにアップしたCaptain Funk “Endless Possibilities (Electro Shuffle Mix)”を紹介しておきます。The Diverはそれこそトラップ・ミュージックやグリッチ・ホップ、ダブステップなどの要素も入っていますが、あまり形に捕らわれず勢いを重視して作りました。 “Endless Possibilities (Electro Shuffle Mix)” は昨年のリリース”Chronicles 2007-2013 vol.1“からのトラックです。引き続きYoutube の Captain Funk チャンネルにこのアルバムからの音源をアップしていきますので、お楽しみに。