アメリカで現在ブームとなっている「リップ・シンク(口パク)」を紹介します。職人芸的な上手さではなく、いかにエンターテインメントとしてインパクトがあるかを競う「エア芸」が特徴です。ここから垣間見える、二次創作の「オープン化」の未来、その最もゲリラ的な手法としての「エア化」についても考えてみます。
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今日はTopicsのページにここ最近の楽曲ライセンス状況をアップしました。米国のテレビ番組での使用が増えてきている感じがしますね。実際にテレビを見ていても、自分の曲に突然出くわす確率が日本のテレビ番組並みになってきているような気もします(笑)。
日本のテレビと言えば、日本テレビの「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」ではCaptain Funkの曲を番組内でよく使って下さっているみたいで、昨年リリースされたDVD/Blu-rayパッケージ商品「(祝)放送25年突破記念 DVD 初回限定永久保存版 (20)(罰)絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時」にも2曲ほど収録されたという報告を頂きました。選曲された方にここで感謝申し上げます。日本の皆さん、機会があったら是非このDVDをチェックしてみて下さい。
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ジミー・ファロンが火をつけた「リップ・シンク・バトル」ブーム
続けてテレビ番組の話をすると、こちらでは最近「Lip Sync Battle(リップ・シンク・バトル)」という番組が大人気です(映像はリンク先のYoutubeチャンネルで見られます)。この番組はコメディアンのジミー・ファロンが司会をしている「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」で評判の良かったコーナーが発展して出来たもので、簡単にいえばハリウッド俳優などを中心とした芸能人による「口パク合戦」です。
「The Tonight Show」が放送されている局は「The Voice」でも有名なNBCですが、「Lip Sync Battle」はSpikeという放送局で今年の4月に始まりました。司会はこのところ「NCIS LA(ロサンゼルス潜入捜査班)」で役者としても人気を博しつつあるLL “Mama Said Knock You Out” Cool J(LL・クール・J)が務めています。
芸を積んだ職人達による、職人芸を必要としない「エア芸」
ノリとしては日本のものまね歌合戦的なバラエティショーなんですが、特徴としては今旬なタレント、俳優がバンバン出演して、普段(本業)の芸風からかけ離れた、かなりギャップのあるリップ・シンク(=口パク)パフォーマンスを披露するところでしょうか。日本のものまね芸のクオリティの高さは言うまでもないですが、この番組では、というかリップシンク合戦は、カラオケ合戦で必須なスキル=「歌の巧さ」が当然ながら全く必要ありません。
さらには、「本人に似ている、特徴を捉えている」といった、ものまね芸の持つウィット(時にはアイロニー)や職人芸的な側面、もしくは「こんな優れた芸も実は他に持ってたんです」といった、かくし芸に必要な準備や練習は殆ど求められておらず、いかにエンターテインメントとしてインパクトがあって切り口が面白いか、セレブリティとして意外性があるか、単純に盛り上がるかを競うことに徹しているように思えます。という点では、ものまねよりもエアギター合戦の方が近い印象を受けますね。えっ、宴会芸?それを言ってしまってはおしまいです(笑)。
リップ・シンクする曲は誰もが知っている有名な曲ばかりだし、出演者も超豪華&意外なメンツの意外なパフォーマンス揃い、さらには視聴者も自分でリップ・シンクしてみて楽しめるという参加性の高さ&敷居の低さも手伝って(このところリップ・シンクとセルフィー(自撮り)の良いところ取りのアプリDubsmashも流行っています。Youtubeにアップされた多くの映像を見ても分かるように、口パクする対象は音楽・歌にとどまりません。)、ソーシャルメディアでのシェアラビリティ(シェアしやすさ、伝染性)が抜群、という点も人気の原因でしょう。
舞台裏では、この番組でリップ・シンクに採用してもらえるように売り込むレコード会社や音楽出版社の間でのバトルも繰り広げられていることだと思います。ちょうど数年前、人気番組「Glee(グリー)」への熾烈な売り込みバトルが繰り広げられていたように。
「主役は自分、名人芸はその表現ツール」という時代
ただ、僕も時々この「Lip Sync Battle」を見て爆笑したりしつつも、ものまねやかくし芸を始めとする日本の芸のウィットや職人気質、名人芸に唸らされてきてそれが馴染んできた者としては、このとても「今」な感じではあるが若干イージーなトレンドに少し寂しさ、まだ物足りなさを感じる部分もあります。コンテクストは出来るだけ低めに設定され、スキルよりも切り口の面白さやインパクトが大事。今の時代、いかに自分が参加できるか、自分を主役とする表現ツールとして使えるかが最終的な興味対象であって、名人芸や達人芸から味わえる他人の芸の深みやオリジナリティに唸り喝采を送るというのは、もはやそこに至るただの通過地点、きっかけでしかないようです。
かつての人気番組「アメリカン・アイドル」には投票という参加性はあったとはいえ、どこまで行っても自分は視聴者(応援する側)であって主役ではない。とりあえず歌が上手くないと参加できない、その「敷居の高さ、憧れ」は今や「自分が主役になれない物足りなさ、退屈さ」という弱点と化し、結果として番組の低迷~終了という末路を招いたのかな…、なんて考える次第です。
エア芸のクリエイティビティとこれから
いずれにせよ、時代が逆戻りすることはありません。日本とアメリカではこの傾向の温度差や具体的な手法に違いはあれど、エンターテインメントやクリエイティブな世界において「主役の座を開放しておく(オープンにしておく)、舞台をフラットにする」という民主化はますます必須条件と言えるようになってきたように感じます。
その民主化の方向性の中には「二次創作物への開放」が当然含まれますが、その中でももっとも参入障壁が低く、かつクリエイティビティを盛り込める余地が残されているゲリラ的な手法として「エア化」があると捉えられるでしょう(著作権をどう処理するかという問題は話が長くなるので今回は割愛します)。
上に挙げたリップ・シンクやエアギターはオリジナル・元ネタに似せる名人芸は必要ない反面、「面白くないと話にならない」という意味において、別の厳しいクリエイティビティが要求されますし、元ネタのインパクトに匹敵するもしくはそれすらを凌ぐエア芸が登場するからこそ、この「エア・マーケット」に関心が集まっているはず。そう考えると、現在のリップ・シンク・ブームは今後発展していく「エア化」のほんの序の口にすぎない、面白くなってくるのはまだまだこれからと、前向きに解釈すべきなのかも知れませんね。
この流れをダンスミュージックで考えると、リミックス~サンプリング~マッシュアップと来て、最終的にはエアDJ合戦が待っている、なんて考えが脳裏をよぎりますが、ぶっちゃけて言えばDJはそもそもエア要素が大きい芸ですから(苦笑、でなければここまでDJという行為が普及・拡大していないはず)、ダンスミュージックの世界はエンターテインメントの中でも先駆けて民主的と言えなくもないのかも(笑)。
個人的にはいずれ日本から大胆かつもっとクリエイティブな切り口でこのリップ・シンクを解釈するパフォーマーが現れてくれることを期待しつつ、僕が一番ウケたDwayne Johnson(ドウェイン・ジョンソン)の”Shake It Off”の「ギャップ勝ち」なパフォーマンスを紹介しておきます。えっ、宴会芸?だから、それを言ってしまっては…(笑)。