アメリカの経済を支えているのは何もウォール街やシリコンバレーだけではありません。家族代々続くスモールビジネスや個人事業主達の踏ん張りを描くテレビ番組「ザ・プロフィット」から、スタートアップの華々しい世界とは180度異なる、もう一つのアメリカの起業家精神を探ってみます。
昨日はニューヨーク・シティ・マラソンがあり、街は非常に賑やかでした。家の前の通りがコースになっていて、朝から側道で応援する人々の歓声とバンド演奏(各所にライブ会場があるんです)の音が響き渡るので、否が応でも気持ちが高揚します。今回は他に外出する用事があり側道に出て応援はしませんでしたが、窓から見える光景と歓声だけでも十分に熱気を感じました。ちなみに近所のバンド演奏は、ギターリフ中心のワイルドなクラシック・ロックがウケが良いのか、昨年同様ニルヴァーナとジミヘン、ステッペン・ウルフのカバーをよく聴く頻度が高かったです(笑)。
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ビジネス版リアリティー・ショー「ザ・プロフィット」(CNBC)
今日は少しテレビ番組の話をしましょう。CNBCという経済番組を中心に放送している局(日本では日経CNBC)のいくつかの番組が、リアリティー・ショーやエンタテイメントの要素を上手く取り入れて、このところ大いに人気を博しています。一番人気はアメリカ版「マネーの虎」の「Shark Tank」(シャーク・タンク)という番組(正確にはABC局からのライセンス放映)ですが、個人的に好きなのは「The Profit(ザ・プロフィット)」という番組です。
この番組、マーカス・レモニス(レバノン生まれ)という実業家が、経営的に苦しい局面にあるスモール・ビジネス(中小企業、零細企業)に自分の資金を投入して、現場と経営の課題にがっぷり四つに取り組み、黒字企業へと生まれ変わらせ(ようとす)るというものです。彼は単なる再生請負人やコンサルタントではなく、数千万から数億円の小切手を切って自ら苦境の当事者入りをするわけですから、依頼する方も依頼された方も待ったなしの緊張感が画面から否が応でも伝わります。その真剣勝負な様(さま)、時に痛々しくすら感じる様が見ている我々を釘付けにします。
ビジネスの勝敗を決める3つのP=「People, Process, Product」
彼が再生を手掛ける業種はパイの製造販売、ポップコーン屋さんからアパレルまで多岐にわたり、よくここまで幅広い依頼を受け入れ、それぞれの処方箋を考えられるものだと感心するばかりですが、彼は依頼する会社の業種に関わらず常に3つのポイントを軸にして問題を分析し、改善策を考えます。それはPeople, Process, Product(人、プロセス、商品)です。皆さんも想像されるように、一番厄介なのは人の問題。ここにも彼は容赦なく入り込んで、人間関係のしがらみやもつれを解きほぐそうと真っ向から立ち向かいます。家族経営や知人同士のパートナーシップから発展することの多い中小企業は、後の2つのPがどんなに改善されても、一番目のPの問題が最も根深い問題になりやすいことをマーカスはよく理解しているのでしょう。
注目したいのは、彼は数字(財務・経理)にうるさく、商品開発・PRの面でもアイデアが豊富な「切れ者」なだけではなく、スタッフ間の意思疎通の交通整理や士気高揚の才にも目を見張るものがある点で、そのきめ細かいアプローチ、現場重視・人重視のリーダーシップにはむしろ日本的なものすら感じます。資本(エクイティ)の取得にも立ち入り(大抵のケースは会社の50%所有を主張します)、数字や説明に虚偽があった時は早い段階で見限る、という辺りにアメリカらしいドライさこそ感じられますが、アメリカ&ビジネスという言葉から従来想像されるイメージでこの番組を見ると、少し肩透かしを食らうのではないでしょうか。
地味ながらアメリカを支える、出口のないスモール・ビジネス達
一般的に、アメリカで開業・起業もしくはアメリカン・ビジネスというと、シリコンバレーのテクノロジー系スタートアップ(=ベンチャー企業)やアメリカンドリーム的な一攫千金のビッグ・ビジネス、不動産、もしくはウォール街で繰り広げられるマネーゲームの様なものを想像しがちです。でも実際のアメリカのビジネスは、家族代々続いてきたスモール・ビジネスや一人もしくは数人で切り盛りしている個人事業・パートナーシップが大半を占め、彼らの踏ん張りがアメリカを支えているとまでは断言できないにせよ、その貢献度は一般的な認識よりもはるかに大きいのです(参考:中小機構「米国中小企業の実態と中小企業政策」)。彼らの殆どは「IPOかバイアウトでエグジット」なんて新聞で書き立てられる世界とは程遠い、出口のないビジネスと格闘し、社長は毎日のやり繰りで夜も寝られない緊張した生活に追われているのが現実です。
マーカスの元には再生依頼(&番組参加)のコールが既に4万件集まっているとのことですから、番組に出てくるような、日々生き地獄と葛藤している経営者、会社がアメリカには(にも)無数にあるということでしょう。だからといってこの番組を見て、じゃあ起業はバカバカしい、スモールビジネスはやるだけ無駄だ、という印象にはならないはずです。やるかやらないかの次元で悩むつもりもなく、またそんな悠長さも残っておらず、やるのは前提でその上で「どう格闘するか、どう持ち直し成長するか」。そこに知恵と情熱を傾けるマーカスと番組参加者達の踏ん張りに学ぶもの、あるいは時に反面教師として得られるものは大きいと思います。
マーカス・レモニスからの、3つのアドバイス
フォーブスのインタビューで彼が答えている、キャリアに関するアドバイスを抜粋しておきます。特に3は大企業で出世の階段を上った経営者達からはまず聞かれない言葉でしょう。
1. 失敗することを恐れない。進んで失敗する。
2. 他人のために働くことも悪くはない。みんなが自分の事業を持つ事に向いているわけではない。いずれ自分の事業を持つにしても、他人のために働くことは、雇われる側と雇う側の立場を学ぶための良い機会となる。
3. 究極的には自分の好きなことをする。短期的には自分の給料を払うためにしなければならないことをする。それは必要なこと。しかし自分が本当にしたいことをするチャンスを作れるように、慎ましい生活をして貯金をしておくこと。
近況 -Dark Model “Abandoned” on Foxhead
最後に近況を。Dark Modelのアルバムに収録されている「Abandoned」が、アメリカのスポーツブランドFox Head (Fox Racing、フォックスレーシング)のプロモーション・ビデオにライセンス使用されています(1分32秒目以降)。ウェイクボーダーのラスティ・マリノスキをフィーチャーした、なかなか雰囲気のある映像です。