リニューアル作業に取り掛かっていたModel Electronic Libraryがほぼ形になってきました。これまでは会員専用ページとしてまず登録をして頂くことにしていましたが、今回のシステムは実際ライセンスの見積もりを行う段階で登録して頂くことにして、ライブラリのページ自体は登録なしでも閲覧出来るようにしました(今後の状況によっては変更があるかも知れません)。現在、既存リリースのミックス違いやインストバージョンなども含めて180トラック近くの楽曲が収録されています。詳細な使用方法についてはまだ補足・修正が必要な部分が色々とあり、それらは追ってMEのウェブサイトの方で説明していきますので、現段階で実際に使用を希望される方はご質問等頂ければ幸いです。
日本と海外での音楽ライセンスビジネスの違い
この楽曲ライセンスという仕事、日本国内と海外ではその取り扱い方がかなり異なります。特に映像用に音源を使用する「シンクロナイゼーション」と言われるものに関しては、その概念や範囲(特に「録音権」)から著作権使用料の取り扱い方まで全くと言ってよいほど違っていて、対国内と対海外ではビジネスとして別物として扱う必要があります。
以前も似たようなお話をしたかも知れませんが、実はこの音源のライセンスビジネスの違いを正確に把握している人は非常に少なく、日本から海外へ音源を供給する際に頼りになる情報や人的リソースは、国内外共に殆どありません。あっても各企業のノウハウとして静かに格納・継承されているにすぎず、一般的に参照できる情報はまずないと言ってよいでしょう。何にせよ、専門家がいないということは可能性は未知数にあるということですから、そのこと自体を憂う必要はないですけどね。
インディペンデント・レーベルやアーティストにも可能性がある領域
音楽産業も相当様変わりし、現在海外では独立系レーベルやアーティストもそういった領域にコミットできる状況になってきています。むしろ手続きが煩雑で対応の遅い大手出版社よりも、小規模で小回りの効く独立系の方が動ける範囲が広い。残念ながら日本国内ではそのメリットを最大限活かせる土壌にはありませんが、国内レーベル/アーティストであっても海外に向けてのライセンス・アウトであれば、やり方次第で成果は出せる可能性はあります。もちろん、そういった熾烈なグローバル市場で戦えるクオリティの音源を持っている(作り出せる)こと、上に書いたように専門家がいない&刻一刻と状況が変化する世界なので、それにキャッチアップしていくだけのフットワークと繋がりを確保できることが条件にはなりますが(一般的には、そちらの課題を乗り越えることの方が難しいかも知れません)。
自分は徒手空拳でこの世界にコミットしてきましたが、その分一般的には全く知られていないノウハウや勘はかなり蓄積されてきました。僕の本業は当然ながら音楽を伝えることではありますが、その過程で得たものは座学や聞きかじりの情報とは違い、全て自分のリアルな体験や試行錯誤から積み上げたものですので、この手の領域に関してニーズがあった時は、お役に立てる事があるのではないかと思います。若いミュージシャンの方で、音楽出版やライセンスに関して興味があるがどこから勉強してよいか分からないという方は、以前書いた記事も参考にしてみて下さい。
なぜ音楽出版を学ぶ必要があるのか? (2010年7月17日)
今日は知り合いの職場に行ってきたのですが、そこは小規模経営ながらもきちんと需要があり、日々業務で忙しくされているようでした。バブル崩壊以降、もしくはリーマンショックの際に”Too Big to Fail” という言葉をメディアでよく聞きましたが、僕はこの言葉は(業種に関わりなく)既に効力を失っているように感じます。音楽ビジネスにおいては、5万枚や10万枚CDを売らなければ仕組みが回らないタイプのビジネスモデルは崩壊した反面、個人のフットワークや小回りの良さが活かせる領域がどんどん増えてきているのも事実ですから、要は考え方一つではないでしょうか。
追記:関連ページ
「彼を知ればこそ己を知る -Part 2- (キャリアとエコシステム)」
「音楽著作権オペレーションの日米比較:「シンクロ権」の扱い方」
最後に僕が好きな映画音楽作曲家の一人、Graeme Revell(グレアム・レヴェル) の作品を紹介しておきます。彼は今は押しも押されぬ名作曲家ですが、伝説のノイズ・インダストリアルバンドSPKのメンバーだったことはもはや意外と知られていないかな。