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音の「耐久性」ということ
デ: 「クオリティ」について聞きましたけど、タツヤは音楽的な「耐久性」に関しても、ずっと昔から言及されてますけど、そこに関してはどうですか?今は、どういう風に考えてますか?
オオエ: うん。「耐久性」に関してですか。今回OEを作ってても思ったけど、15年前16年前の曲でも、このアレンジはないよなぁとか、この曲は今、もう無かったことにしたいなあってのは幸い1曲もなかったのね。
デ: ほうほう。
オオエ: 人がどう思うかは分からないけれども、どの名義であれ、自分の中では、この曲は当時乗せられて自流に乗せられて作ったから人にもう聴いてほしくない、みたいなのは無いんですよ。他人の事は想像の範囲でしか分からないけど、レコード会社に所属しているアーティストとか、色々な人達と一緒に仕事しないといけない人たちと違って「今受けなきゃいけない」「この先半年で結果を出して、契約を切られないようにしないといけない」という使命とか切迫感を僕は持ってないっていうか、持たなくて済むような環境を作ってきたから、そういう風に「今、この音を作ればイケる!」みたいなのは、意識しないようにしてる。
そうでなくても、インディ(ペンデント)で音楽をやってると、自分が創ったものがリスナーのみんなに伝わるまでに、実はすごく「時差」があるんだよね。大々的なプロモーションをして、リリースして一か月でバーッとみんなに音が浸透する、なんてことは絶対に期待できないから、自分の音が人々に伝わるまでに、常に少なくとも2,3年のスパンとかタイムラグを織り込んでおかないといけないのね。そういう意味でも、いかに「今流行っているスタイル」や、刹那的な「ウケ」に翻弄されずに、「いつ聴かれても自分で責任が取れる」音創りと、それが実現できる環境を作るというのは、ずっと学習しつつ、考えてきたテーマではあるかな。
ダンス・ミュージックとかエレクトロニック・ミュージックとかって、機材が変わっちゃうとやっぱり音も変わるから、やっぱりすごく短命になってしまいがちなんだよね。音楽全般、というよりも「録音物」には寿命というものがあるので、そこら辺がすごく難しい。僕はいつも「リリース日」は、こちらがその曲を発売した日じゃなくて、リスナーのみんなが「初めてその曲を聴いた日」だと思うようにしてる。聴かれるタイミングも反応もバラバラでランダムなものだからね。作り手はそれをコントロール出来ない、ということを織り込んだ上で、過去と今と未来を見ながら、創作に取り組むようにしてるんだ。
そういう意味では「メロディ」はアレンジよりも普遍性が高くて寿命が長いから、エレクトロニック・ミュージックであっても、メロディは大事にしたいと思ってる。あと、ストリーミング真っ盛りの時代ではあるけど「アルバム」としてきちんとコンセプトとストーリーを考えて、一作一作、説得力のあるものを創りたいというのはずっと心掛けているかな。結果的に、1曲単位で聴かれても、自分の中でコンセプトをしっかり持っていれば、将来に向けて舵を取りやすいからね。
音のストーリー・メイキング
デ: そこで一つ思いついたんだけど、OEの質問じゃなくてね、Dark Modelの質問になっちゃうかもしれないけど。僕は、Dark ModelもOEもCaptain Funkも全部好きなのですが、特にDark ModelとOEの音楽は、作品の中でストーリーを作ってるっていうか、ストーリーメイキングがうまいなぁっていうのを感じたんですよ。
もう一言付け加えると、あれらの音楽って「映画のサウンドトラックみたいですよね~」みたいなことを言われがちだと思うんだけど、僕的には、全然そこは違うように感じるんだよね。音に魂が込められてるっていうか、音楽で1つのストーリーが作られてて、何かの映像の裏で流れてる音楽っていうふうには聞こえなかったんだけど。もうちょっと大げさにいうと、オオエタツヤの「生きざま」みたいなのが反映されている音楽っていうか、そういう感じがしたんだけど、どうなの?そこは?多分、音楽の主張が強すぎて、下手に映像がつけられないように逆に感じたのね。
オオエ: あーはいはい。そうだね。うん、うまいこと言うね(笑)。Dark Modelに関しては応援歌みたいなところがあって、自己実現っていうか、自分を含めた「リスナーが逆境から切り抜けるためのテーマミュージック」を創りたいと考えているところがあるんだよね。音楽的な要素だけ拾うとオーケストラだし、インストゥルメンタルだから映画音楽っぽく聞こえるのは分かるけれども、映画音楽ってのは、基本的に映像とストーリーありきで、その後に音楽がある。そこでは音楽は、その映像のストーリーを更に引き立てるためのものであって、音楽単体でストーリーを語っているわけではないんだよね。だからサウンドトラックの音楽を買って聞いたとして、場面が浮かぶかもしれないけど、その思い浮かべる先のストーリーに関しては、映画監督なり、映像を作る人が作ったものだからね。音楽だけでストーリーを奏でたものでは決してないわけ。
僕がやりたいのは、Captain Funkの「Songs of the Siren」やOEの「Director’s Cut」を作った時の動機と一緒で、「音のストーリーを監督する」ことなんですよ。自分がストーリーを紡ぎたいわけ。だから添え物ではないんだよね。だから、Dark ModelでもOEでも、あれで完結して良いわけであって、映像がついてくる必要はないと思うし、Dark Modelの音楽単体で自分が言わんとする事、伝えようとしたいこと、伝えようとしたいストーリーがはっきりとあることが、前提になっている。
それに、そこが音楽の面白いところだと思ってるんだよね。そういう意味で言うと、漫画家とか、小説家とか、映画監督とかとすごく近いのかなってのは思う。アニメーション作家とか。僕は音楽でストーリーを作って生み出すことがすごく面白いと感じてる人なんだと思う。音でその自分が思い描く世界観を表現する、紡いでいくのが楽しい。すごく楽しい。僕は文章をかいたり、絵を描いてストーリーを紡ぐってのはしないし、得意じゃない。けれども、音で説明していくっていうのはできるなぁと思ったんだよね。
「時間芸術」って言葉があるんだけど、時間軸に沿って語っていくアートなんですよ、音楽っていうのは。僕はそこがすごく面白いと感じて音楽やっているってのがあるんですよ、どの名義でも。Captain FunkでもOEでも、Dark Modelでも、そこはけっこう重視してるかな。実はDJもそうなんだけどね。DJも時間で旅を作っていくっていうね。良いDJというのは、結局のところ、良いストーリーテラーなんだと思う。幾つものトラックから時間を積み上げて、山あり谷ありを作っていくわけじゃない。そこが音楽っていうか、時間に関する面白いところだよね。写真とかはまた違うように思うんだけどね。音楽は、音の紙芝居を考えていくっていうか。
だから、映画監督には近いかも知れないけど、映画音楽とは違うんだよね。映画音楽は映画が主役だから、もっと引き算で考えなきゃいけないからね。はじめにストーリーありき、映像がありき、のものだから、音楽はそこをどう引き立てるかを考えなきゃいけない。Dark Modelはそうじゃないよね(笑)。Dark Modelのストーリーが引き立つように、Dark Modelの音楽を考えてるからね(笑)。だから、あれを聴いて「映画音楽みたいですね、かっこいいですね」って言われたら、表面的にはそう聞こえるかもしれないけど、目指してるところも役割も全然違うんですよって言いたいかな。アメリカのライターさんでDark Modelの音楽を「聴く映画だ!!」って表現してくれた人がいたけど、まさにそうだなって思った。
デ: OEはどうなの?OEでも、Dark Modelと同じ方向性で作ってるの?
オオエ: ある程度はね。今までのアルバムに関していうと「Here and You」も「Director’s Cut」もストーリーを重視して考えてたね。今回のNew Classicsは今までのものを集めたものと新曲を織り交ぜているから、もう少し緩く作ったかな。Captain Funkでは「Songs of the Siren」というアルバムで、ストーリー作りに力を入れて作ったし、どの名義でもストーリーメイキングということは常に意識しているんだ。ただ、最近はスポッティファイとかできて、みんな1曲単位で聴いちゃうので、そこの面白さが伝わりにくいのが残念だけどね。