リミックスを終わらせて以降、契約書のチェックとか出張の手配で時が過ぎていってます。契約書は英語のものが最近多くて、20枚近くある書類を自動翻訳にかけては、全然正しく翻訳してくれないので結局一から自分で読解したりしている、効率が良いのか悪いのか(笑)の日々が続いています。
制作の方もそろそろ次の作品作りに入ろうかと思いますが、その前にUKの某女性シンガーのプロデュースを手伝うことになり、今彼女からもらったデモ曲を聴いては、どこから手をつけようか考えを巡らせています。 僕の曲をウェブで聴いて本人からダイレクトにオファーが来たのがきっかけなのですが、最近この手の「ダイレクトなお話」が多くて、ウェブのありがたみを今更ながらに感じています。
ところで、先日リリースした2枚のアルバムの曲は自分のレーベル、出版会社からのリリースですから、ウェブに載せるにしても他レーベルにライセンスを許可するにしても、今までの自分の楽曲とは比べ物にならない位にフレキシブルに対応できるんですね。
リスナーの方にはあまり直接関係のない話なのですが、ミュージシャンって自分の作った楽曲でも使用許諾を自分だけで決められるケースは実に少なく、そこはかなりの節度と関係者への根回しなどのプロセスが必要になります。通常、例え一人で作った音楽であっても、一人でマスター音源を作って一人で売っているわけではなく、様々な方の協力やお世話があって初めて世に触れる状態に持っていけるわけですから、当然と言えば当然ですね。
そこが自由裁量で決められるようになったというのは、ミュージシャンにとっては非常に大きな変化なんです。もちろん、それによる不便さやデメリットもありますが、今のところは僕のスタイルに合っているように思います(元々、僕はアーティストになることよりレーベルをしたい気持ちの方が先でした)。
後はこれをいかに継続、成長させていくかですね。一人よがりなモティベーションだけで仕組みを作ろうとしているわけでは全然ないので、少しづつそのビジョンもリスナーの皆さんに伝えていけるように頑張ります。
今日は、上に書いたような英文の契約書を読む・作る際に僕が参考にしている書籍をいくつか紹介しておきます。音楽ビジネスの契約書(特に著作権契約書)は独特のスタイルがありますが、イディオムの使い方や契約事項の順序立てはほぼ基本通りですから、こういった書籍はある程度役に立ちます。
日本国内では、契約書というかしこまった形式を採らず、事後詳細の交渉が可能な猶予を持たせた「覚書」といったラフなドキュメントを好む場合があったり、逆に契約書の体裁を採る時はえらく詳細でボリュームが半端ない(=読む気がしない、読む気を起こさせないことでケムに巻く?)冊子状態のものになるという、割と極端なところがあるのに対し、英文契約書は(音楽ビジネスに限定すれば)、簡潔だが過不足なく数枚にまとめたものが多いように感じます。その代わり効力の範囲が曖昧な「覚書」といった立ち位置のものは殆ど作らず、契約書として名乗り(agreement, agreement)契約書として機能します。契約書は簡潔で後の詳細はExhibitとして、別紙で済ませることも多いですね。このExhibitがAに始まりB, Cと複数に渡ることもあるので、どこまでが契約書などかを注意深くチェックする必要があります。
「英文契約書の基礎知識」は幅広い業態での契約ケースを踏まえた内容になっているところが親切、「基礎からわかる英文契約書―ビジュアル対訳」は比較的最近出版されたこともあって、さらに読みやすくとっつきやすい。「よくわかる 音楽著作権ビジネス 基礎編」は、英文も含めた著作権契約書のベーシックなテンプレートが巻末に掲載されていて、音楽ビジネスのビギナーの方には必携の一冊だと思います。
日本では「海外では契約書が絶対的に効力を持つから」とよく言われるのでみな慎重になると思うし、確かにそういった面はありますが、個人的に違和感を持つのはそれよりも、海外では契約書をリニューアルする頻度が異常に高いこと。音楽業界のみならずもっと幅広い顧客を抱えたサービス業界においても、皆さん半ば勝手に契約内容を変えてしまいます(苦笑)。会社のM&A、バイアウトなどに伴う契約内容の変更はもちろん、まるで新しいロゴで社員の名刺を印刷し直すがごとく、業績や市場の動き一つで結構簡単にルールを変えてしまいます。絶対的に効力を持つルールをしょっちゅう相手の都合で書き換える、この理不尽な傾向にどう対応していくかを見定めておくことが、最初の契約書にサインする際に実はもっとも大事なことなのではないかとすら思います。
カタイ内容の話が続いたので、最後に誕生日プレゼントとして頂いて、舞い上がった「Gucci by Gucci」を。トム・フォード以降のコレクションが比較的多めではありますが、グッチの歴史を網羅的にビジュアルで確認できる、豪華な一冊です。
追記:上記の関連ページ