UKの著作権管理団体PRSによるNavigating the Music Business(音楽ビジネスの航海図)という記事を紹介します。日本ではJASRACが音楽の著作権について丁寧に対応して下さいますが、一般的にクリエイターが音楽ビジネスや著作権の知識や知恵を学べる機会がまだまだ少ない。とはいえ、積極的に動けば自分で調べられること、学べることは沢山ありますから、自分の力を信じて動きましょう。
トレイラー(映画予告編)音楽のトレンド
先日少し紹介したトレイラーの話題、現在の状況については色々な角度からお話が出来ると思うのですが、先日親しくしているLAの会社とのやり取りでマーベル・コミックスの新作映画”The Avengers” のトレイラーが話題に上ったので、早速紹介しておきます。 このトレイラーはNine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)の “We’re in This Together”が効果的に使われています。具体的に言えば、この一つの楽曲の一部分をベーシックなモチーフとして繰り返し使うことでトレイラーのストーリーに一貫性を持たせ、ドラムフィルを場面転換に用いて緊張感を与え、後半部分にヴォーカル部分のサビを持ってくることでトレイラー自体に盛り上がりと高揚感を作り上げている、などの点が挙げられるでしょう。
かつてトレイラーは、非常に多くの楽曲を詰め込んだメドレー状態のものが多かったのですが、この”The Avengers” のトレイラーはもっとシンプルで的を絞った楽曲の使い方をしていますね。ただ、使っている楽曲が楽曲なので、予算的には後者が圧倒的に経済的とは言えないとは思いますが。
トレイラーといえば、Captain Funk の楽曲がアメリカでXBoxのビデオゲームのトレイラーに使われることが決まったようです。詳細はまた分かり次第お伝えししますね。
話は変わり、先程Music Think Tank というサイトの記事”Navigating the Music Business – Mapping Out A Living”を読んでいて、Findingsで少し書いた著作権の話とも関係する部分があったので、少し紹介しておこうと思いました。これはModel Electronicのブログの方で書く方が相応しいタイプの、少し専門的な内容かも知れませんが、先日の内容と関連性があったのでまずはこちらのページに書きます。
上の記事で掲載されているチャート”Music Universe”は、UKの著作権管理団体のPRSが作成したものです(世界中の管理団体一覧については当サイトのガイドページを参照)。このチャートはミュージシャンとそれを取り巻く様々なエンティティ(音楽業界の参加者)がどういう仕組みでつながり、各関係においてどうお金が流れるのかを簡潔に記したものです。ざっくりではありますが、これを見れば音楽の流通の仕方や使われ方にどういう形態があり、それらの形態に誰が関わっているのかが分かる仕組みになっています。
(ちなみにこのチャートはPRSの”For Creators” というページの “Career Support” というページからダウンロードできます。)
サイトをご覧になって頂くとお分かりの様に、PRS はこうした複雑なビジネスの仕組みを、音楽を使いたいと考える使用者に対してだけではなく、音楽を作る作家・ミュージシャンに対しても分かりやすく説明すること、また興味を持ってもらうことに熱心に力を入れています。それはミュージシャン/作家が著作権ビジネスについて正しく理解すること、ひいてはPRSに入会してもらうことでお互いが(健全な形で)利益になるからです。
日本のJASRACもサイト上にQ&Aを設けて、様々な角度からかなり丁寧な説明をしていますし、質問をすれば丁寧に答えてくれるはずです。これはJASRACの方達にも直接意見させて頂いていることですが、願わくば使用者側だけでなく、上の様な作家側に対する情報、具体的なメリットがもっと分かりやすい形で掲載されるとさらに良いのではないかと思います。
日本はまだまだ作家に役立つリファレンスが少なすぎますが、(自分も含めて)作家側がもっと貪欲に関心を持つようにならない限り状況は変わらないでしょう。先日書いた「文化」と「ビジネス」の話に重ねて言えば、ユーザーやジャーナリストはまだしも、プロの(=既に達成した)作家やコンテンツを作る側がこの二つの要素を曖昧にしたり、時に都合よく混在させて事に当たることは、一見見た目や聞こえは綺麗でも、結果として誰をも(リスナーの人たちをも含め)幸せにしないと僕は考えています。プロを目指す次世代の人達が学ぶことが出来ない、知恵を共有できないということは、ビジネスの面でも文化の面でも活性化が遅れる、止まるということに繋がりますから。
自分の力を信じて、自分で学ぶ
デジタル系ディストリビューターとして有名なTunecoreのブログ”New Rules For The Music Industry(音楽産業のための新しいルール)” に、”12) YOU ARE NOT POWERLESS” というくだりがありました。2) EDUCATE YOURSELF と一緒に抜粋して紹介しておきます。Tunecore はディストリビューションのみならず、DIYミュージシャンに対して手厚いケアと啓蒙活動を行っているとの評判がある会社です(僕が利用しているのはここではないですが、上で紹介した Nine Inch Nails など有名なアーティストもこの会社のサービスを利用していますね)。
12) YOU ARE NOT POWERLESS (君は無力ではない)
「音楽は衣食住のようなものではないが、音楽は誰もが好きだし必要としているものだ。音楽産業は今、年間300億ドルを生み出している。このお金を手にするエンティティ(事業体)や人々は、レガシーな企業から君の手に移ろうとしている。この5年以内に君達が集結するパワーはそれらレガシーな企業のどれよりも強くなっていることだろう。君は状況を変える力を持っている、それも既にだ。」
2) EDUCATE YOURSELF (自分で自分を教育しなさい)
「メカニカル・ロイヤリティ(録音権、ただし日本では若干意味が異なる)とメカニック(技術屋)という言葉の意味の違いを知らないアーティストというのはもはや受け入れ難い。これを知らないことで誰かに利用されることがあったとしても、君は文句を言えない。君が必要な知識はそこら辺に転がっているし、探すのは難しいことではない。自分で学んで知識を手にしてはじめて、相手がきちんと仕事をしているかが判断できる。言うまでもなく、レーベル等は既に知っていることだし、君も知るべきだ。」
音楽とは離れますが、これは税金に関しても言えるのではないかと思います(上の「相手」を「国」や「会社」に置き換えてみて下さい)。日本は確定申告をしなければならない職種・状況が限られており、雇用主側での源泉徴収と年末調整のシステムが行き届いている(=至れり尽くせり過ぎる)ため、自分の払っている税金(及び保険・年金)についてリアリティを持って知る機会が少なすぎます。でも、足元の自分の納税額や差っ引かれ方、計算の仕方について知らないで(反対から見れば、それらを身を持って体験させる習慣を国民に浸透させないで)どんな議論をしたところで、迫力に欠ける薄っぺらいものにしかならないのではないでしょうか。
税金についてEducate yourself せざるを得ない機会が増えれば、何を国(他人)のせいにして何を自分のせいにすべきかについて真剣に考える人がもっと増えるはずです。長年自分で(最近は会社の決算を合わせた年2回)税金を計算し納税している身として、そう思う次第です。
追記:上記の関連ページ