[2023年追記: 免責事項]この記事は2015年に書かれたものですので、現在の日米の著作権管理状況とは異なる可能性があります。この記事にアクセス頂き、シンクロナイゼーションや音楽ライセンスに対する興味のきっかけとして頂けることに感謝しつつ、最新動向をお知りになりたい方は、各自文献や専門家の情報をご参照下さることを希望致します。
動画サイトの登場によって、企業から個人まで映像を制作・公開する機会が増え続けている一方で、映像に音楽を同期させて使用する権利=「シンクロ権」について参考になる情報はまだまだ少ないと言えます。今回はこのシンクロ権を中心に、日本とアメリカでの音楽著作権の管理方法・オペレーションの仕方の違いを解説します。
Contents
「Differences in Sync Licensing between Japan and the US -Part 1-」
「Differences in Sync Licensing between Japan and the US -Part 2-」
現状:日米著作権ビジネスの違いに関する情報が少なすぎる!
その内容は「とても参考になった」という単純に嬉しい反応、「さらに詳しい話を聞きたい」という海外アーティストや音楽ライセンス業務に就いているプロからの質問&リクエストの二つに分かれるのですが、最近アメリカ人から頂いた要望の中に「私はこのブログでかなり理解できたのだけど、言葉の問題があって、この内容を日本人の仕事仲間に伝えるのに苦労している。仕事相手の日本人の彼のために、もし出来たらいつかこの記事の日本語版を作ってもらえないか?」というものがありました。
音楽に限らずビジネスにおいては日本とアメリカでその商習慣に大きな違いがあることは多々あれど、確かにそれ以前に&それ以上に言語の問題が障害となってしまうことの方が現実的には切実な問題だったりします。僕自身もその辺りの壁にしょっちゅうぶつかりながら、暗中模索で体得してきた身なので、その切実さはよく理解できます。4年前に書いたブログは海外のユーザーが役立つように書いたものであり、その内容を日本語に焼き直すだけでは僕も面白くないので(笑)、今日は関連トピックを中心に上の様なニーズにも対応できそうな情報を紹介しておきます。
先日このウェブサイトのMusicのページにModel Electronicとしてリリース・管理している自分の楽曲のライセンス方法について、Musicのページに新たにガイドやFAQのページを作りました。Model Electronicのページに掲載していた内容を最新版にアップデートし、さらに日本語版のページも付け加えたので、この辺りの内容にご興味ある方は一度目を通してみて下さればと思います。ただ、あくまでもここに書いているのは僕の楽曲のライセンス方法、使用許諾方法ですので、全てのケース一般に当てはまる訳ではありません。またこれは実務レベルでの解釈であって、アカデミックな正確さを求めたものではありません。そこはご了承下さい。
「楽曲ライセンスについてのガイドライン」
「映画・広告・ゲームなどへの楽曲使用ライセンスの取得方法」
「楽曲ライセンスについてのよくある質問」
「ガイド:音楽演奏権・録音権管理団体とのやり取りについて」
複数ある音楽著作権。海外ではそれらを管理する主体はそれぞれ異なる。
音楽の著作権・出版権周りの定義や範囲の問題で海外(主にアメリカ)と日本で大きく異なるのは「シンクロ権(テレビCM、映画、ゲーム等の映像に音楽を同期させて録音する権利)」の扱いだと思います。著作権や著作隣接権の定義、演奏権、録音権などの解説は上に挙げたガイドページやJASRACその他の著作権関連ページに詳しく書かれているのでここでは割愛するとして、音楽ライセンスの実務に役立つであろう現実的な側面だけに触れておくことにしますね(著作隣接権の一つである「原盤権」、そして「原盤使用料」については超重要なので、このページの最後に説明しました)。
アメリカではパフォーミング・ライツ(演奏権)・メカニカル・ライツ(録音権、と一般にはされている)・シンクロナイゼーション・ライツ(シンクロ権)はそれぞれ独立した、別物の権利として扱われます。その3つの権利を所有するのは通常「音楽出版社(パブリッシャー)」と言われる会社もしくは作詞・作曲家(以下「作家」)本人ですが、彼らから委託を受けてそれらの権利を管理する主体はそれぞれ異なることが普通です。
演奏権は演奏権専門の管理団体(パフォーミング・ライツ・オーガニゼーション、これを略してPROと呼びます)が行い、メカニカル・ライツはメカニカル・ライツの管理団体(メカニカル・ライツ・オーガニゼーション、MROとはあまり言いませんがそう略すこともあります)が行います。アメリカのPROと言えば、ASCAP, BMI, SESAC、MROとしてはThe Harry Fox Agency(HFA)があります(SoundExchangeなど特定領域下での管理団体については、ここでは割愛します)。
シンクロ権は誰が管理しているのか?
実はシンクロ権を管理する団体はアメリカにはなく、主に音楽出版社が各自管理しています。以前HFAが管理していた時期もあったようですが、現在は自主管理が基本であり、シンクロ権のライセンス(シンク・ライセンス)は当事者同士の「指し値」による交渉が行われています。
(実際のシンクロ使用にはシンクロ権の許諾だけではなく、原盤権の許諾も必要なことに注意。つまり、マスター音源を持ったレコード会社からの許諾も必要になります(ある曲をカバーして同期したい場合は除く)。)
これに対し日本(便宜的にイコールJASRACとさせて頂きます)ではシンクロ権というものをわざわざ別の権利として独立させて捉えないで、「録音権の一部」として包含して解釈しています。そのため、シンクロ権という言葉自体、最近まで日本ではあまり使用されていませんでした。確かに、音楽に映像を同期させようが、音楽単体で使用しようが、「(何らかのメディアに)音楽を録音する、焼き付けて複製する権利」であることには違いはないですから、この解釈は解釈で何ら間違ってはいません。英語ブログからの流用で恐縮ですが、下にJASRACの方で管理されている権利の説明図を紹介しておきます。
「メカニカル・ライツ」と「録音権」は違う?
本来「メカニカル・ライツ」と言われるものは「phonorecord(フォノレコード:全ての「オーディオ」録音媒体の総称)に焼き付ける権利」ですから、日本の「録音権」はもっと幅広い範囲を意味した文字通り「(オーディオ、映像問わず全ての録音・録画媒体における)レコーディング・ライツ」であって、現在アメリカで使われている「メカニカル・ライツ」とは100%イコールではないと考えるのが適切でしょう。下の図は僕の方でそれを加味して上の図をアレンジしたものです(これは独自解釈なので、JASRACとは何の関係もありません)。基本的に演奏権・録音権の許諾や使用料の支払いはJASRACの規定に則ってある意味「お任せ」で行われますが、テレビCMや映画などでのシンクロ使用など、アメリカと同じく当事者同士での指し値交渉が必要なケースもあります。
個別管理 VS 一括管理。そのメリットとデメリット
これまでの説明でご察しのように、シンクロ権うんぬん以前に日本とアメリカの著作権管理の世界で大きく違っている点として、音楽出版社および作家は演奏権・録音権共にJASRACに一括管理を委託することが可能だということがあります(これは「可能」であって、「強制」ではありません)。このことは、日本の音楽出版社および作家はアメリカの様な煩雑な出版権・著作権オペレーションに追われなくて済むという長所であるとも言えますし、逆に各権利の独立性をフルに活用したオペレーション・運用を行うことが難しい(これも「難しい」であって「不可能」ではありません)という短所だという見方も出来ます。
(アメリカではネットワーク&ケーブル・テレビ、ハリウッド映画、ゲーム産業まで、音楽を同期して使用する映像・映画のボリュームが膨大ですから、シンクロ権だけをオペレーションしても立派にビジネスになる位の市場規模があるという、日本とはかなり異なった事情があります。実際シンクロ交渉だけを取り扱う、半ば不動産のブローカーの様なビジネススタイルのライセンス会社、エージェントがこの5年位の間に台頭してきている位です。)
その「音楽著作権管理をワンストップで行う」という、世界でも稀に見るJASRACのビジネスモデルを独占的・硬直的と見るか、ユーザーにとって分かりやすく合理的だと見るかどうかは評価が分かれるところかも知れませんが、もしアメリカ方式で各権利を完全に分断して別々の団体が管理したり、一部を自主管理などしてみたりすれば、このJASRAC方式の恩恵を受けることに慣れてしまった我々権利者もしくはユーザーが、どれだけ作業を複雑に感じ(さらに)混乱を招きやすいかは想像がつくかと思います。実際に日本のユーザーが海外の楽曲を映画やパッケージ、最近ならYoutubeで使用しようとした場合、日本にあるサブパブリッシャーやライセンス先のレコード会社がその辺りの障壁を緩和する役割を果たしてくれるとはいえ、その許諾プロセスの面倒臭さに辟易したというケースは数多くあるはずです。
最近ではYoutubeやリップシンク・コンテストなどでの拡散を期待して許諾をあまりうるさく言わない楽曲、ケースも時折ありますが、あれは話題になって儲かるがゆえの方便としての例外であって、許諾プロセスというものはいつでも複雑で手間がかかるものです。権利者のマーケティング上の都合で楽曲レベルで許諾のガイドラインを緩めたり引き締めたりするのは、長い目で見ればユーザーにますます混乱を与えるのではないかと思う反面、そういった紛らわしいケースは今後も増えていくでしょう。
注意:「原盤権」「原盤使用料」もお忘れなく!
ちなみに原盤権はここまでの説明に殆ど登場していませんが、レコーディングされた「音源・録音物」に関しての所有権である原盤権(Master Rights)は、上に述べた演奏権・録音権など出版周りの権利とは全く質の異なる権利です。この点に日米の違いはありません。
(原盤権は、「著作隣接権(Neighboring Rights)」と、分かりづらい名称で呼ばれている権利の一つなのですが、この名称があたかも原盤権をあまり重要でない権利、後回しにしても良い権利のように印象づけてしまうところがあり、非常に良くないと思います。また、「録音権(その曲を録音物に吹き込む権利)」と「原盤権(音楽であれ、会話であれ、騒音であれ、録音物つまり「ブツ」の所有権)」を混同しやすいのも、紛らわしい名称によるところが大きいでしょう。)
Model Electronicの音源を含めて、市場に流通・販売されているCD収録楽曲やダウンロード楽曲の音源を使用する場合は、そのマスター音源(原盤)の所有者=多くの場合レコード会社やレーベルに別途許諾を得る必要があります。つまり、JASRACに著作権使用料を支払えばそれで許諾作業は終わり、DVDやゲームに即使用可能、というわけではありません。さらに言えば、一般的に市場に流通していなくても、他人が録音して作成したマスターである以上は、その人がマスターの所有権を持っていますから、(その楽曲の作詞・作曲など出版状況がどうなっているかとは別に、さらにはそれが音楽であろうがなかろうが)それを第三者が所有者から許諾を得ないで使用することには問題がある可能性があります。
楽曲の許諾という話になるとJASRACの話ばかりがクローズアップされて肝心の原盤所有者の話が抜け落ちてしまうことがあり、プロの映像制作者やパッケージメーカーの方でも知らないうちに原盤制作者の権利を侵害している場合がありますので、そこはご注意下さい。
どういった場合に原盤使用料の支払いが必要になるのかについては、当ウェブサイトのライセンス解説ページでも説明していますので、そちらも併せてお読み頂けると幸いです。
参考:「楽曲ライセンスについてのガイドライン」
追記:この原稿を書いている最中に、アメリカの演奏権管理団体であるSESACによる、メカニカル・ライツの管理団体the Harry Fox Agencyの買収が完了したというニュースが飛び込んできました(Billboard)。アメリカ国内で唯一のメカニカル・ライツの管理団体が(3つ存在する)アメリカの演奏権管理団体の一つと手を組むということが今日書いた内容にどう影響してくるのか、追ってウォッチしていきます。