第一弾、第二弾、そして前回の「エピック」解説に引き続き、Dark Modelのニューアルバム「Saga」についての米国ニュース/音楽メディアでのレビューを紹介します。今回は各レビューの「妙」を味わって頂くために、普段より長めの翻訳を紹介します。
日本はGW真っ只中かと思いますが、皆さん有意義に連休をお過ごしでしょうか?ご存知のようにアメリカは国民が一斉に休みを取れる祝日・休日は少なく、企業や組織でも宗教観などによって休みの設定の仕方にバラツキがあります。同業者や自営業者はみな、常に連絡を取れる態勢にしておくことが基本になっているので、休日で誰も連絡が取れない!なんてことは殆どありませんが、他の業種ではこの人もう職場に戻ってこないんじゃないか?と思う位に長期もしくは頻繁にバケーションを取る人もごくまれにいます。例えば、僕が連絡すると決まってバケーションを取っていて、依頼したい案件の用事が済んだ頃に「ごめんごめん、今日戻ったよ」と返事が来るベテランの弁護士(アメリカ人)がいます。彼が年間何日間仕事をしているのか本当に謎ですが、こういうタイプは決まって客単価が高い。その「仕事量を減らして効率よく稼ぐ」心意気(?)は見習いたいところですね(笑)。今回もDark Model「Saga」のレビューを2つほど紹介していきます。前回紹介したMusic-News.comの「エピック」分析に続いて、今回紹介する記事も個人的に興味を惹かれるものでした。
M.I.R.P 411 レビュー解説 & 「Inferno Suite」試聴
まず、アメリカの音楽ウェブサイトM.I.R.P 411 (Music-Interviews-Reviews-Photos)のレビューから。ここでも「エピック」の定義について解説されています。全体を通して深い洞察力を持って書かれていて、大変興味深く読ませて頂きました。
「『Saga』はエピックである。メリアム=ウェブスター辞書での「エピック」の公式な定義は以下のようになっている。「特に規模や視野において、通常や普通の状態をはるかに超えていること。」これはこの作品『Saga』が何であるかと一致する。『Saga』は気が狂わんばかりの、まるでジャンル同志がぶつかりあう「音の第三次世界大戦」のようだ。カテゴリーに分類することが不可能で、とても速いスピードで作品が展開していく。力強く、圧倒的で、野心的である。このアルバムはまた美しい芸術作品でもあり、それは例えて言えば、世界中からとびきり異国情緒あふれる原料を含んだ色素を集めて作った最高品質の塗料を用いて、揺るぎのない筆致で描かれた極上の油絵のようである。」
(「音の第三次世界大戦」というのはタイミング的にかなり不穏な表現に聞こえますが(原文 “It is frantic, like World War III fought with musical genres.”)、「様々なルーツを持った音楽が混じり合う」ことを少し脚色を入れて表現した比喩だと理解すべきでしょう。)
「私が感じたのは、これら13曲の1曲1曲が「アート」、すなわち映像作品として、体験として、またコンセプトとして、独立した形で成立していること。それと同時に気付かされるのは、それぞれの楽曲がアルバムの中での立ち位置としての意味を持ちながら集合し、全体として一つのエネルギッシュで疾走感のある、壮大なスケールを持った旅をリスナーに提供しているということだ。『Saga』を通じて、オオエはリスナーを山あり谷ありの旅へといざない、音楽を通してだけでは普段あまり経験することのないビジュアルな刺激すらもたらす。このアルバムの中ではとても多くの出来事が起こる。ある時には生から死に至るまでの美しい人生を描いた4分間の視覚的な音楽表現が聞こえてきたり、またある時はアウトバーン(高速道路)を疾走する風景が目に浮かんだ。さらにはスコットランドの民族を描いた映画「ハイランダー」の様な、絶望と死、悲劇に包まれた海外映画を彷彿させたりもした。」
下記の楽曲の描写に関しては、僕はこれらのメタル・バンドの名前すら知らないため、この喩えの妙が理解できず残念です。とにかく、Dark Modelの音楽をここまで深く考察して頂けたことに脱帽の思いです。ここに出てきた収録曲「Inferno Suite」を下に紹介しておきます。
「オオエの作曲を通じて伝わってくるストーリーに加えて、私は何人かの対照的なアーティストが脳裏に浮かんでは消えた。例えば3曲目の「Rage and Redemption」、この曲で私はフィンランドのシンフォニック・メタル・バンドNightwishとエレクトロニックDJのSkrillexが、1977年伝説のディスコStudio54にダブルで大トリを務めている姿を想像した。また5曲目の「Inferno Suite」では、ノルウェーのブラックメタル・バンドDimmu Borgirが1982年全盛期のアダム・アントと出会う映像が頭に浮かんできた。」
「オオエは『Saga』で全く正しいことを行っている。このリリースには抗うことの出来ない美学があり、彼のミュージシャンシップは非常に素晴らしい。そしてコンセプトメイキングと作曲についても申し分ない。アルバム一枚を通じて、前奏、ビルドアップ、クライマックス、そして穏やかさがある。疑う余地もなく、『Saga』は幅広く楽しめる芸術作品だ。そこには国、民族、年齢、場所、そしてジャンルの垣根は存在しない。楽曲のタイトルを見て、あなたはオオエの狙いを垣間見た気になれるかも知れないけれども、彼はきっと我々の想像力を働かせる贈り物を与えようとして、わざとその辺りを曖昧にしているに違いない。」
Ellenwood レビュー & 「Storm Goddess」試聴
もう一つはロサンゼルスを拠点とするインディ系音楽ウェブサイトのEllenwood EPです。こちらも「Saga」を高く評価して頂いて、心から嬉しく思います。Storm Goddessは前回紹介しましたが、昨日Facebookに新たに楽曲をアップしたのでそちらも掲載しておきます。
「Dark Modelの最新アルバム『Saga』はその名にかなった内容で、複合的な音楽ジャンルを通して私達を劇的で、映画的な音楽の旅に連れていく。『Storm Goddess』はアルバムに先行して発表された楽曲のうちの一つで、収録曲13曲の中で最もテンションが高く激しいものとなっている。この曲は力強いスネアとバイオリンから始まり、どのパートが生演奏でどのパートがデジタルによるものなのか、リスナーがなかなか見分けがつかない方法で作られている。これは特にドラムに当てはまることで、いわゆるテクノ・ブレイクビート・スタイルではあるものの、本当にスキルの高いドラマーが演奏したかのようなサウンドをしている。」
「『Saga』はクラシカルな組曲のドラマ性や激しさを好むインディ/エレクトロニック・ミュージックのファンだけでなく、モダンな音楽も好きなクラシック音楽のリスナーにも格好の傑作だ。」