Captain Funk 『Sunshine』リリース時に2009年8月にJet Set Recordsから受けたインタビューをアーカイブ化しました。お楽しみ下さい。
Jet Set Records (以下J): CAPTAIN FUNK名義での復帰作となった前作『Heavy Metal』『Heavy Mellow』から2年ぶりのアルバムですが、まずはこの2年間の活動について教えて頂けますか。
Tatsuya Oe (以下T): 2007年の秋までは前作のプロモーション&ツアーなどで現場活動に集中していましたが、その後はレーベルの将来的な展開を考えつつフランス、ドイツなどに出向いてネットワークを拡げたり、レーベルの世界配信サイトClub Model Electronicのシステム作りに時間を費やしていました。
特にヨーロッパに関しては「Hey Boy, Hey Girl」がパリのファッションピープルの集まるパーティーでアンセム化したり、myspaceなどを通じて多くのレスポンスをもらっていたので、自分が今まで行っていた「DJとしてのツアー」という形ではなく、もう少し視野を広げてコミュニケーションを取るようにしていました。
2008年はDune, Radiopilot などの海外リミックスや若干のイベント参加を除いて、殆どの時間をこのClub Model Electronic周りの事業準備、海外とのネットワークを充実させる作業で1年が終わりましたね。
J: では早速アルバムの話に入っていきたいのですが、アルバムのレコーディングはどのように進んでいったのでしょうか。(レコーディング期間やレコーディング環境などざっくりとしたお答えで結構です)
T: 本格的な制作は今年の2、3月辺りから始めました。リリース時期が夏になりそうだと思ったので、今回は思い切り夏向けなテーマに振り切ってアルバムを作るのも面白いかもと思ったんですね。(Captain Funkとしてアルバム全体で季節感を出そうと思ったのは初めてです。)
楽曲のストックは若干あったのですが、前作同様ヴォーカルトラックをしっかりと聴いてもらえる作品にしたいと思ったので、ヴォーカリストとのやり取りを軸にして各トラックを同時進行で作曲、ミックスしていきました。
J:『SUNSHINE』はミュージック・シーンの今のトレンドの音とは意図的に異なりますよね。強いて海外のアーティストとの類似を挙げるとすれば、アルバム前半はALAN BRAXEやLIFE LIKEといったフレンチ・ディスコ・ハウスの良質なクリエイターの作品に通じるかなと思っているのですが。今回のアルバムのサウンド面でのコンセプトのようなものから訊かせて頂ければと思います。
T: ここ数年のトレンドで自分が共感出来る音はありますし、例えばDJを行う際にはそれらのトラックを使用することが必須にはなりますが、自分が作る作品、特にモデル・エレクトロニックからリリースする音に関しては、もう少し「耐久性のある音」を作ることを念頭に置いています。
誰にとってどういう音が耐久性があるのか、これも百種百様だと思いますが、各人にとって血となり肉となっている音、音に対する先天的な遺伝子みたいなものは変わらないので、そこを自分なりに素直に出す事=自分にとって耐久性のあるプロダクションなんだろうなと考えています。長きにわたって自分が「責任の取れる音」と言ってもいいかも知れません。
ALAN BRAXEやLIFE LIKEなどと通じる部分があるとすれば、恐らく聴き育ってきた音楽環境、遍歴が近いんじゃないかなと思います。音楽を聴き始めた頃からのインプットや聴き方が近いと、「今の捉え方、感じ方」も似てくる。そんな印象を受けますね。
日本では自分と同じ様なバックグラウンドを持っているダンスクリエイターはあまりいないように思いますが、ヨーロッパ、特にフランス、イギリス、ドイツなどは70年代後半からディスコ、ファンク&ソウル・ミュージックとエレクトロニック、New Waveな音楽を子供の頃から大量かつ並行に聴く環境が普通に出来上がっているので、彼らと音楽遍歴の話をすると、被る部分が多々あります。
J: パっと聴きでは目新しさや革新性をアピールするようなサウンドではないのですが、エレクトロというキーワードが氾濫して久しい日本国内の状況において、この普遍性とのバランス感覚は新鮮でしたし、非常に間口が広くミュージシャンシップの高い作品だと思いました。正しい表現が判りませんが、現代版AORのようなニュアンスでポップス同様に楽しむことが出来ますよね。
T: ありがとうございます。実際ラジオでも「Weekend (kissing, touching, tasting, loving)」は各FM局で、それこそジェニファー・ロペスやNe-Yoに続いてプレイして頂いていたりいるのを知って、嬉しく思っています。出来る限り広い層にこの音楽に触れて頂く機会が作れると良いんですけどね。
ダンスミュージックというのは、本来ポップ(思わず体が動く、多くの人が共通して口ずさめる)な要素を持っているんだと思います。ダンスには実はメロディの要素も大事で、「踊れるメロディ」、譜割りみたいなものがあると思っているので、メロディやハーモニー作りはビートと同様、それ以上に時間をかけます。
ダンスに限らず、ジャンルが膨張して細分化が進むと、そこから「違いを出す」「差をつける」ための「立場」を主張するための音楽が出現する、という流れがどんな音楽ジャンルにも生じてきますよね。タコツボ化していくというか。
「オレはこんな音楽を知ってる」「こんな音楽を押さえた上で音楽を作っているよ」「この音楽によってこういう居場所を確保してます」というサインを発することへの自己顕示欲が、本能的に楽しい楽しくないとかよりも優先される、というか体の上にある脳がそのサインを先に送ってしまって体もそれに着いて行く、みたいな風潮は音楽のみならずファッションを含め、カルチャー全般で見られます。
僕もそこに魅力を感じる部分もなくはないのですが、90年代後半以降そのタコツボ化 が進みすぎてしまって、誰も入り込めない小さなタコツボが沢山出来たものの、逆に「共通項」を探したり横断する醍醐味やクリエイターがあまり価値をもたなくなって無重力状態みたいな感じ=砂漠化してしまった感じがします。
(関係ないですが、マイケル・ジャクソンはそういった、各時代のリスナー(作り手の僕らを含め)の自己肯定と否定(反省)の間を行き交う「最後の踏み絵」みたいな存在になっているような印象を受けます)
ダンスミュージックに関して言えば、複雑な事情や知識を相当入れ込んで「予習」している人でないとさっぱり良さが分からない、ついて行けない、と感じてしまうことと、本来「体が本能的に動く」ということは、何だか矛盾しているような気もしますよね。
人間の感情の動きとか反射神経みたいなものは何万年もさして変わらないので、人が音を聴いて体を動かしたり涙を流す本能的な部分は一緒だとすると、音楽でも「変えてよい部分」と「変えない方がより伝わりやすい、感じやすい部分」があるように思うんですね。
パスタで言うと麺(コシ)とトッピング、みたいな話でしょうか(笑)。洋服でもパタンナーの方ときちんと型取りから入って生地の特性を理解したデザイナーでないと、表層的な目新しさを追求しているだけではコレクション数シーズンの賑やかしで終わってしまいますから。
普遍性といっても、ありきたりの手法を真似るとか既に流行っているものをダメ押しするというアプローチではなくて、人間が本来持っている音への感じ方って何だろうなみたいな原点を忘れずに、Captain Funkにしても他の名義にしても、音楽に取り組むように心がけてはいます。国や時代が多少変わっても耐えていける音楽というか。
そう考えると、どんなにアレンジを変えてもブリーピーなシンセリフを入れても誤魔化しようのない、メロディ、ハーモニー、リズムの骨格をきちんと押さえるというのが、やはりダンスでも大事なのかなと思います。
J: アルバムの流れにストーリー性のようなものを感じたのですが(時間軸から昼から夜に移っていく感じとか)、世界観の設定のようなものはあるのですか。
T: 確かに時間的な流れは意識していますね。夏の朝(昼)~晩の流れを想像しながら曲順を考えました。
J: では各曲について解説を頂ければと思います。M1「Endless Days」。アルバムを象徴するような楽曲ですね。どこかアーバン・リゾートのビーチサイドを思わせるような開放感と高揚感があって。
T: 前回の『Heavy Mellow』でも自分のコーラスをフィーチャーした曲を1曲目に持ってきたのですが、オープニングにうまくはまりましたね。
J: リードトラックとなっているM2「Weekend」。この曲と「Just Wanna Get You Tonight」にはマケドニア出身のヴォーカリストAdnan Kurtov が参加していますね。
T: 彼とはmyspaceで出会って以来数年の付き合いです。まだ20代後半で若いのですが、音楽一家に育ち、ヴォーカルから各楽器まで普通にこなせるマルチプレイヤーです。音楽的なバックグラウンドも近いためか、コラボレーションは非常にしやすかったですね。実際に制作をする前に仲良くなっていたのもあって、レコーディングに関してはメールだけで2曲完成に至りました。
「Weekend」は転調が多くてキーも割と高いので、なかなか歌いこなせる人がいなかった曲で、実は僕が日本語で歌っているバージョンなんかもあるんです。Adnanの持つフィーリングがとても曲にマッチしていて、彼に歌ってもらって本当に良かったです。
J: 次にM5「Piece of You」。個人的にはSwing Out Sisterの初期なんかを想起させられる曲調です。リズム等は今のベーシックにアップロードはされているのですが、どこかノスタルジックな気持ちになるというか。
T: Swing Out Sisterは意外な反応で新鮮です、確かに彼らの音楽にはブルーアイドソウルな雰囲気もありましたね。あと、反復で押し切る黒人のディスコ物とは違い、きっちり転調パートなんかもありました。
この手のディスコファンクっぽい曲調は、自分の中ではまさに遺伝子に刻まれているという感じです(笑)。歌ってくれたMeri Neeserは前回「Hey Boy, Hey Girl」でバッチリだったのでお願いしました。今回はパリで遠隔レコーディングでしたが、これもスムーズに完成しました。
J: M7「Sunshine」。アルバムの中では異色のロッキンなナンバーですが、これも’80年代MTV的(U2とか)なノスタルジーな感覚がありますよね。
T: そうですね、アメリカンハードロックとかパワーポップっぽいところもあるかも知れませんね。
J: M8「Just Wanna Get You Tonight」はアルバム中でもキャッチーな曲の一つですね。例えばChicagoの楽曲をJustice以降のリミックス感覚で再構築したような。
なかなか面白い表現ですね。この曲は最初もう少しサーファー・ディスコみたいなアレンジだったのですが、サルサピアノ的なぶっきらぼうなリフをいれてみたりしながら徐々にアレンジを変えていきました。
今回はこれまで以上にトータルコンプを強くかけているので(コンプの種類も変えてみました)、鳴り方が最近のダンスっぽくなっているのかも知れません。恐らくここまで強気でリミッターとコンプをかけているダンスミュージックは国産物にはあまりないでしょうね(笑)。
J: Jet Setの特典音源の方、本当にありがとうございました。このヴァージョンについても解説をお願いします。
これは「Just Wanna Get You Tonight」とM4「Girlfriend」をマッシュアップさせつつ、よりDJフレンドリーに再構築したものです。最近PLAYMODELというハウス寄りのプロジェクトを立ち上げたのですが、このミックスはCaptain FunkというよりPLAYMODEL的なアプローチかも知れませんね。
J: では最後に今後のスケジュールなどを教えてください。
今回”Hey Boy, Hey Girl”のリミックスでも登場したPLAYMODELの制作を行いつつ、ライセンスなど海外とのやり取りに時間を当てます。モデル・エレクトロニックとしては、次はPLAYMODELのリリースになるかも知れません。あと、第一期 Captain Funk のリイシュー(再編集&再発)を行う予定があるので、どういったひねりを加えて皆さんに過去音源をお届けできるか楽しみにしていて下さい。
これらのリリース、準備作業が整った段階で、レーベル主導で何らかライブ&パーティーが出来ればいいなと思っています。この辺りの動向、最新情報は https://www.tatsuyaoe.com にアップしていきますので、そちらもチェックしてみて下さい。
J: ところで、CD版のパッケージについてですが、今回は白バックに青のメタリックでCFのロゴと、前2作との共通性を残しつつ、夏らしい爽やかなデザインになっていますね?通常アルバムのアートワークって、毎回デザインをがらっと変えたりするのが通例になっていますが、この「あえて変えない」のは何か狙いがあるのでしょうか?
T: これも先ほどの「耐久性」の話と繋がりますが、モデル・エレクトロニックでのリリースは、音だけでなくアートワークも含めてプロダクト作り全体に一貫性を持たせて行く事で、皆さんに長く付き合って頂けるようなレーベルに育てていければと考えているんですね。
初期のCF作品では毎回アートワークのコンセプトやトーンもがらりと変えていましたが、自分のレーベルではそういったブランディング、クリエイティブ・コントロールも非常に大事な要素だと考えています。
(インタビュアー:Gikyo Nakamura, Jet Set Records)