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OE(オー・イー)のニューリリースのお知らせと「All Around」試聴
僕の主なプロジェクトの一つであるOE(オー・イー)の新しいリリースに取り掛かっています。Dark Modelのアルバムを2枚リリースし、プロジェクトの音のキャラクターとコンセプトを理解してもらうための土台作りがある程度出来たので、しばらく手付かずでデジタル流通もしていなかったOEの作品のまとめとリニューアルをしようと思ったのです。
このリリース準備をいざ始めてみると意外と作業量が多くて、過去のPro Toolsのデータを掘り下げたり、新たにギターやヴォーカルのレコーディングをしてみたりで夏が終わってしまいました。アレンジはそのままに音の鳴り方をより今風にアップグレードした曲から、大幅にアレンジを変えて別曲に作りかえてしまった曲まで、過去のOE作品を知る人もそうでない人も、新鮮に聴けるもの、そして将来聴いても耐久性があるものを目指して作業をしています。収録曲選びと各曲のミックスはほぼ完成に近づきました。2017年は、Dark Modelの「Saga」とこのOEのアルバムの2作品をリリースして一年を終えることが出来そうです。
アルバムの収録曲など詳細については次回以降に紹介させて頂きますが、収録予定の曲の中から「All Around (New Version)」の抜粋をアップしておきますので、まずはこの試聴サンプルをお楽しみ下さい。OEの名義でカバーする領域は結構広範で、アルバム「Here and You」で聴けるようなエレクトロニック&アコースティックなものから「Tessera」の様なコンテンポラリー色の強いもの、そしてアルバム「Physical Fiction」の様な音響実験的なものまで含まれるのですが、今回のリリースでは、比較的ポップな曲や楽曲の骨格がはっきりした曲を優先して収録する予定です。
以下の文章は上のOEのお知らせの前に持って来るはずだったのですが、それこそ散漫な内容になってしまったので(笑)、まずは自分のリリースの話題を先に持ってくることにしました。
散漫でヒステリックな時代を逆走する
皆さんもご存知の様に、アメリカでは連日連夜不穏なニュースが報道されています。これ以上事態が悪い方向に進まないことを願うばかりですが、自分の影響力が及ばないもの、コントロールできないことを憂いても仕方ありません。ニュースに限らず、どうでもいい事、自分と家族の人生に関係のないことに首を突っ込んで時間を使わせる、またそれにキャッチアップしないといけないのではないかという強迫観念(恐怖心)をあおるエサやワナに溢れかえっていて、「今本当に集中すべきことは何か?」を冷静に判断して、中長期的なビジョンを持って行動することがますます難しい時代になってきた感があります。
メディアを含めた多くのビジネス、テクノロジー、そして政治のビジョンやデザイン(設計)が散漫で注意欠陥的、ヒステリックで短絡的な方向に進んでいるように見える中、目の前の誘惑や地雷を避け、将来自分が振り返って納得できるような生き方、時間の使い方をするためには、まず「しなくて良いこと、スルーして良いことは何か?」を考えることから始めるべきではないでしょうか。
そんな風に、しなくて良いことばかりに気を取られているように見える人(苦笑)が大統領に選ばれた国に住みながら思う今日この頃です。トランプに関する話は彼の良し悪し含めて沢山書けますが、それこそ3年後読み返すとどうでも良い記事になってしまいそうなのでスルーしますね。
リスナーは業界が考える以上に地に足が着いている?
音楽ビジネスの世界も超短絡的に動いている印象を受ける中、先日音楽業界の調査会社BuzzAngleの興味深いレポート (“BuzzAngle Music 2017 Mid-Year U.S. Report“) に遭遇して、ちょっとした発見がありました。リリース時期ごとのアルバムの聴かれ方を調べたところ、発売後の経過時間が156週以内の比較的新しいタイトルよりも、それより古いタイトル(”Deep Catalog”と言われます)、つまり発売から3年以上経過したタイトルの方がよく聴かれていたのです(51%)。購入に関しても、フィジカル・アルバム(CDやアナログレコード)のDeep Catalogが占めるシェアは55%と、発売3年以内のタイトルを合計した比率を上回っています。
もちろん、新譜のタイトルの数とDeep Catalogの膨大な量を比較すれば当然の結果とも言えるかも知れませんが、ざっくり言えば、リスナーの方は業界が話題作りや仕掛けに躍起になっている新しいタイトルやアーティストの音源に翻弄されているばかりではなく、評価の定着した音楽を慎重に吟味・発掘して購入し、楽しむ人も大勢いるということでしょう。アーティスト別年間アルバムセールスのトップ25のリスト(25ページ目)に、ケンドリック・ラマーやドレイク、ザ・チェインスモカーズに混じって、エルヴィス・プレスリーやピンク・フロイド、そしてジョニー・キャッシュまでがエントリーしている、というのはちょっと象徴的です。
詳しい数字はBuzzAngleのウェブサイトとレポート(PDF)を参照して頂くとして、この調査結果は、常に最先端を走り続けなければならない、ニューカマーを輩出しなければならないという業界側の競争意識(もしくは強迫観念)を少し裏切るような結果に見える部分もありつつも、インディペンデントでマイペースに活動している自分にとっては、むしろ直感に近い印象を受けます。ただ、メジャーも含めて現在こういった傾向にあるというのは、僕としても驚きでした。
長距離マラソンとしてのアーティスト活動
音楽の流通がデジタル化する以前から、自分の様なインディペンデント・アーティストの場合は、発売時にどんなにプロモーション・宣伝を頑張っても、そのタイトルと音が浸透するまでには少なくとも数年の時間がかかるという認識がありました。Captain Funkとして活動し始めた頃、自分としては目一杯現場や取材をこなし、スタッフの方々にも日々猛烈に仕事をして頂いていたので、数年のタイムラグがあって大きな反響が返ってきた時には、既に最初のリリースから十年くらい経過したかのような錯覚を覚えたものです(笑)。その時の経験があって、「リスナーが聴いた日が発売日」、つまりこちらが発表・発売した時期が問題なのではなく、聴き手の皆さんに到達した日が一番重要なのだという認識を持つようになりました。
だからといって発売時のプロモーションを怠って良いという訳ではありませんが、アーティストはマラソンランナーの様にペース配分を考えながら、息長く活動が続けられて、リスナーの方にもいつ楽しんでもらっても良いような「ストック型」の環境を作ることが大事だと考えることにしています。
とはいえ、インディ、メジャー関係なくレーベルやマネジメント側は短期回収(キャピタル・ゲイン)を期待しますから、関係者のモティベーションを下げずに長距離マラソンを走り抜くというのは、一般的にはなかなか大変なのかも知れません。マラソンと言えば聞こえは良いですが、実際は壮大なガマン大会(笑)みたいなところがありますから、アーティストの気長なビジョンや人生設計に付き合ってくれる理解者や協力者を見つけることは、本人が肉体的・精神的に健全でいることと同じくらいに大事なのではないかと思います。
何かウォーレン・バフェットの話みたいになってきそうなので、今日はこの辺で。