今年の冬は日本も記録的な寒さに見舞われていると聞きます。こちらはさらに寒く、年末年始には氷点下10度を超える日が続きましたが、そろそろ極寒の季節も終わりに近づいているのではないかと期待しているところです。僕は親の仕事の関係で幼少の頃日本を転々としたものの、全て東京以西だったので、寒さに対する免疫は本来ありません。家の窓が凍結して開かないとか、コートの下にダウンジャケットとセーターを二枚着て外出、なんて事態に遭遇したことはありませんでした。自分がこんなに寒い地域に4年以上も暮らせていることが今も不思議です(笑)。
対照的な内容のアルバム二枚に仕上がりました
さて今日は、OEのアルバムの完成と発売の報告です。「New Classics Vol.1 & Vol.2」というタイトルで、4月20日にCD発売&全世界配信を行うことにしました。過去にOE名義で発表した作品に収録されていた曲を抜粋し、全て新たにアレンジ&ミックスした「新バージョン」の楽曲群に加え、今回初披露の新作を収録しています。Vol.1, Vol.2 共に18曲入りで、一作品70分を超えるボリュームとなっています。
Vol.1はヴォーカルトラックを多く収録し、比較的ポップなもの、アップテンポなものが中心になっています。Vol.2はインスト中心で、実験色の強いものやエッジの立った楽曲が多く揃えられています。中にはDark Modelの作風とクロスオーバーする楽曲も含まれています。同じOE名義でありながら、かなり対照的なアルバム2枚に仕上がっていると言えるでしょう。
収録曲のタイトルなどは間もなくTopicsのページでお伝えしますので、そちらをご参照下さい。
データに刻まれた「過去の自分」と、創作に向かう「今の自分」
この2枚のアルバム制作に取り掛かったのは昨年の夏ですから、完成までに約半年かかったことになります。当初はもっと速いペースで、もっと気楽に(笑)完成まで漕ぎ着けられると予想していたのですが、途中一番てこずったのは、「自分の記憶を辿ること」、というよりも「記憶を辿ろうとする習性を断ち切ること」です。
僕は5年前に所持品のほとんどを処分し、スーツケース二つで渡米したというお話は以前書いたことがあったかと思います。その時パスポートやグリーンカードと同じ位に重要で「お金で買えない、アメリカに絶対持っていかなくてはならないもの」として、Pro Toolsなどの制作データがありました。それまでに所有していた十数テラバイト分もあるハードディスクの中身をポータブルな大容量の外付けハードディスク数個にまとめて運んだのです。
そうした下準備のお陰で、渡米後も制作時にデータがなくて困ったことはまずなかったのですが、15, 6年前に作った楽曲とかになると、どうやって作ったのか記憶も定かではないものや、今のテクノロジー環境ではどうやっても動かないソフトウェアで制作したもの、既に持っていない楽器でレコーディングしたものなどが当然出てきます。つまり、データ自身が手元にないのではなくて、「どうやって自分がそのデータを作ったのか、またどうすればそのデータを再現できるのか」、それが思い出せない、もしくは思い出せても現実的に出来ないという事態に出くわしたのです。これは作業当初は全く予想していませんでした。音源のデータを一つ一つ検証しては、手放したヴィンテージのシンセサイザーや、古いソフトウェアを動かすためのOS9搭載のMacをオークションで手に入れることを検討したりと、一時は「再現」のための試行錯誤に明け暮れたものです。
で、結局どうしたか?答えはシンプルで、「再現はやめて、新たに作る」です(笑)。そもそも今回OEの作品のリリースで目指しているのは、過去の作品の「復元・復刻」作業ではなく、OEとしての自分の「今を伝える」ことですから、手放した機材やソフトを手に入れて「時計を戻す」ことにエネルギーを注ぐことはむしろ本末転倒で、Dark Modelや(第二期)Captain Funkの活動、そして渡米を経た、今現在の自分の環境・心境から音を紡いでいくことにさらに意識を集中すべきだと考えました。
「忘れること」を敵ではなく、味方にする
そう視点を定めることでもたらされたものは、「時間の経過と忘却」という当初「創作の敵」に見えたものが「味方」に変わったことです。自分の過去の作品を懐かしむ気持ちや思い入れ、時間を遡ろうとする衝動を(ゼロにするまではいかないにしても)最小限にとどめることで、新鮮な気持ちで素材に接することが出来、また過去と自分のアイデアを比較する必要性からも解放されて、伸び伸びと創作に取り組むことができたと思います。ただ、一から作った部分が多い分、普通に新曲を作るのと同じ程度の時間を要しました。
こうした過程からアルバムのタイトル「New Classics」(「新しい過去の曲」もしくは「新たな定番」)が自然と浮かんできました。以前のOE作品を聴いたことがない人はもちろん、また以前の作品を持っている人、聴いたことがある人も、是非「全曲新曲」として聴いて頂きたいアルバムです。
このアルバムについては、今後このFindingsでも試聴はもちろんのこと、制作エピソードやバックストーリーを紹介していく予定ですので、ご期待下さい!