一週間ほど格闘した挙げ句、新しいストアの原型がほぼ出来上がりました。今回はあまり複雑なCMSは使わず、Wordpress を拡張してダウンロードストアに仕立てたのですが、今のところ試運転は順調に進んでいます。目的はプロユースということで設計してはいますが、もちろん皆さんもご利用出来ますので、オープンしたら是非お立ち寄り頂けますと幸いです。tatsuyaoe.com のストアで会員登録をして頂いている方には立ち上げ後に詳細なご案内メールを送らせて頂きますので、よろしくお願い致します。
映画音楽のクオリティ=映画監督と作曲家との信頼関係
今日は、先日のRob Dougan, Craig Armstrong に続いて映画と音楽との関わりということで Clint Mansell(クリント・マンセル) を紹介しておきましょう。彼の名前を聞いた事がない方も、映画”Requiem for a Dream” のテーマ曲は聴いた事があるのではないかと思います(7,8年前にFindingsでも紹介したかも)。一聴しただけではPhilip Glass(フィリップ・グラス)辺りのモダンクラシック系ミニマリストの作曲家の作品のようにも聞こえますが、単純なストリングス・モチーフを繰り返しビルドアップしていくこのストレートで直情的(「溜めて爆発」)な、若干強引とも言えるアレンジの作風は、案外正統的な音楽教育を受けた人からは生まれてこないスタイルなのではないかと思います。それもそう、この人は ポッピーズこと Pop Will Eat Itself の元メンバーなのです。90年代後半から徐々に映画音楽の世界で頭角を現し、今や大御所の風格すら感じられますが、出自はロックです。
僕は彼の特に最近の作品が好きで、ミッキー・ロークの第一線復活作としても話題となった “Wrestler(レスラー)(’08)” や “Moon(月に囚(とら)われた男) (’09)”, “Fountain(ファウンテン 永遠につづく愛) (’06)”, そして昨年の “Black Swan(ブラック・スワン)” など質の高いスコアを立て続けに提供しています。どの作品もミニマリスティックで音数が少なく、西欧の映画作曲家の中では珍しく「間の美学」を感じる作曲家ですね。僭越ながらも、何となくOE名義っぽい雰囲気と非正統派ならではの乱暴さがあって(笑)、勝手に親近感を持っています。
ただ、これは僕の読みですが、彼の場合、監督からの直接の指名があるなり監督との信頼関係が強固なために、ここまで作品本位なスコアに仕上げられるのではないかと感じます。恐らく中間に色々な業界関係者の意見が入り込むようなフォーメーション/環境ならば、ここまで個性的で世界観の強い作品にはならない、というかさせてもらえないでしょう。そういう点では、非常にシステマチックでハイアラーキカルな「発注モード」で進む王道ハリウッド物とは一線を画しています(その手のタイプで優れた作曲家もいずれ紹介します)。もちろん、彼と組む監督自身(Darren Aronofsky(ダーレン・アロノフスキー) とのコラボレーションが多い)がそういうワークスタイルであろうことに大きく起因してはいますが。
信頼関係があれば、責任も生まれる
クリエイター同志の信頼関係で世界観が完結でき、しかも商業的にもきちんとインパクトをもたらすことが出来る(クオリティ・コントロールと共に客観性やビジネス的視点を兼ね備えている)というのは、クリエイターにとって最も理想的かつ達成しがいのある仕事のあり方だと言えます。その方がクリエイターとしても、質に関して「覚悟(責任)が据わる」のはもちろんのこと、自ずと質と量(損益)をマネジメントせざるを得ないので、逆に「好きに作りました」では済まないシビアな状況にクリエイターを追い込む(言い換えれば、成長させる)ことが出来るのではないでしょうか。多少逆説的にも聞こえますが、自分はそう考えます。
CMであれ他の映像作品であれ、またModel Electronicでの活動であれ、自分も出来る限りそういった関係と姿勢で仕事をしていきたいと思っていますが、これはある種夫婦やバンドに近い関係で、一期一会と言えば聞こえが美しいものの、お互い自我や自負を持つ人間である以上、未来永劫蜜月が続くばかりではないのが現実です(黄金コンビとして有名なティム・バートンとダニー・エルフマンですら決別していた時期がありました)。 そういう意味では「作品の質の維持は信頼関係の維持ありき」ということもまた言えそうですね。Clint Mansell の音楽をそういう風に聴く人はあまりいないかも知れませんが(笑)。
ところで、上に挙げた映画で個人的に好きなのは”Wrestler(レスラー)“と”Moon(月に囚(とら)われた男)“です。前者はミッキー・ロークの復活作としてよく知られているのでここで説明するまでもないですが、”Moon”の方は、どことなく「惑星ソラリス」を彷彿させる静謐で深淵な雰囲気が印象的でした。
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