「Metropolis(メトロポリス)」アルバム・サンプラー
11月8日にリリースされるCaptain Funkのニューアルバム「Metropolis(メトロポリス)」のアルバム・サンプラー(ダイジェスト試聴クリップ)を作りました。現時点ではまだ限定公開で、このtatsuyoe.comがネット上での初のお披露目となります。
放送業界やメディアの方から頂く前評判は上々のようで、何よりです。お聴きになってお分かりのように、今作は6月リリースの「Oceans(オーシャンズ)」の全編インスト路線を踏襲していますが、内容は更に(ジャズ)ファンク寄りながらもアクセスしやすい楽曲が多いのではないかと思います。
アルバムのコンセプトとバックストーリー
前回は海もしくは海洋をテーマにして曲を作り、ストーリーを考えましたが、タイトルにあるように今回は都市や街を思い浮かべて作曲し、アルバムの構成を考えました。僕は広島に生まれ東京、大阪、福岡で幼少期から社会人になるまでを過ごし、この6年間をニューヨークで暮らしています。それぞれの都市に思い出や思い入れはありますが、小学校中学年(70年代後半)を過ごした福岡時代と、それ以降大学入学前(80年代末)までを過ごした関西時代が最も多感な時期で、今の自分の文化的な感性を形成する基盤になっているように思います。
僕が関東から福岡の小学校に転校し中学年(3年生)を迎えた頃、日本ではニューミュージックと呼ばれるポピュラー音楽がお茶の間に登場し、ラジオ番組ではアメリカ、イギリスの音楽を中心とした洋楽のヒットチャート物の番組がとても人気でした。関西の小学校に転校した頃(5年生)に流行りの洋楽やビートルズなどのレコードを買って聴き始め、中学校入学後にニューウェイブ、R&B、ジャズ、プログレなど様々な音楽を掘り下げていきました。当時リアルタイムで流行っている音楽も刺激的だったし、60年代70年代の音楽を遡って聴くのも正に発見の連続でした。ギターやシンセなどの楽器を手に入れ、それらの音楽のコピーをしたり、友人とスタジオに入ってバンドごっこを始めたのが中学2,3年。高校の頃は、電車通学時に好きな音楽を聴いて没頭し、帰りに梅田や心斎橋のレコード屋に寄り道をして知らない音楽やアーティストに出会うのが楽しみで学校に行っていたようなものです(笑、勉強もしました)。音楽のスタイルやそれを取り巻くテクノロジーが目まぐるしく変化し、音楽を聴く形態もレコードからCD、ステレオコンポからウォークマンへと移行し、世界中の人々の音楽の楽しみ方、広がり方が大きく変化した時代です。そういった、日本で生まれ育った自分固有のレトロスペクティブな視点を交えつつ、Captain Funkとしてのシティ・ミュージックをこのアメリカ/ニューヨークから発信してみたら?そう考えたのが今回のアルバム制作のきっかけです。
こういった音楽を説明するのに巷では便利な言葉というか、Future Funk(フューチャー・ファンク), Nu Disco(ニュー・ディスコ), Synthwave(シンセウェイブ), Boogie(ブギー), City Pop(シティ・ポップ)等々、意味が分かったようで分からないジャンル用語が溢れかえっていますが(笑)、上に書いたように、現在進行形のシーンやトレンドを意識してというよりは、個人的なルーツにインスパイアされて作っている感が強いです。音色選びやミックスは常に現代的なキレと新鮮さのあるものに仕上げようと心掛けてはいますけどね。
「シーン」や情報と一定の距離を置く
そういえば前作「Oceans」について、日本のある評論家の方から、「最近の西海岸ビートメイカーの何でもごった煮に音を詰め込むような感じとも、日本の”引用の記号性”が散らばったAOR風インストとも全く異なる、大人な仕上がりが心地良い」という嬉しいコメントを頂いたのですが、残念ながら僕は日米どちらのシーンに関しても具体的に誰のどういう音を指しているのかピンと来ないので、ひとまず作品を気に入ってくれたんだなという部分しか理解できませんでした(笑)。というより、メディアでよく言われる「音楽シーン」というものは、実際はその「渦中にいる当事者と少しの取り巻き」、つまり内輪ノリ程度の規模だったりするので、知り合いに当事者がいない限りその存在に全然気づかないということが多々あるんです。例えば僕が現在いるアメリカで気づく点があるとすれば、ブルックリンやLA辺りではそういう「シーン」や「コミュニティ」と呼ばれるものが日々無数に生まれては消えていくような「印象を受ける」ということです(付け加えれば、それらがアメリカではない場所、例えば日本やヨーロッパの一部で異常に有り難がられ、過大評価されているようにも見えます)。そういった潮流が僕の新しい創作のアイデアやスタイルに直接影響するほどのインパクトや接点をもたらすことは、これからもないでしょう。
「自分の耳や感性のアンテナに自然に入ってくる以上の音楽を聴かない、情報を仕入れないようにコントロールする」というのは、創作の質と量を一定に保つ上でとても大事なことだと思っています。「Encounter with」から20年以上が経ち、様々なタイプの音楽を創って来ましたが、僕がこの手の音楽を創っている時が一番しっくり来るという点は少しも変わることがなく、これからもそうだろうと確信しています。聴けば気持ちが高揚し、体が揺れる。これはもはや理屈や言葉で説明出来るものではなく、性(サガ)の問題なんですね。
何はともあれ、アルバムサンプラーをチェックして、11月8日以降CDや配信で楽しんで頂ければ嬉しいです!