日本は残暑が大変厳しいと聞きますが、皆さんお元気でしょうか?こちらは数週間ほど快晴と雷雨が交互にやってくる、不順な天候に見舞われていましたが、ようやく落ち着き、若干秋の気配が感じられるようになりました。猛暑の間は控えていた、ロウアー・マンハッタンや郊外の美術館とギャラリー巡りに最適な季節の到来が待ち遠しい、今日この頃です。
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次の作品について
さて、僕は目下次の作品の構想を練っているところです。名義はどうあれ、次のリリースは(少なくとも僕にとって)クリエイティブな意味で大きな前進があったと思える作品にしたいので、時間を十分に確保して取り組みたいと思っています。もちろん、毎回そのつもりでやってはいるんですけどね(笑)。
不思議なことに、渡米して以降、この国の音楽シーンやエレクトロニック・ミュージックの動向に対する関心は逆にどんどん薄れてきて、創作の上で自分が触発される対象が音楽そのものではなくなってきた感があります。にもかかわらず、それに伴って、自分の音楽に対してもっと厳しく接しなくてはならないという意識が強くなってきました。「厳しい」という表現が少し舌足らずで掴みづらいとすれば、もっと自分の創る音楽が自分を本当に反映し、それを聴き手にきちんと伝えきる努力をしているかの見極めをよりしっかりやるという意味になるかと思います。そういった意識がどういう音になって表れるのか、今後の動向をお楽しみにしていて下さい。
今の時代、音を創ることやそれを作品として記録すること自体はとても簡単に出来ます。どこかのジャンルやトレンドに沿った形態やフォーマットで音楽を創ることは、それこそコンピューターとソフトウェアがあればかなりイージーに出来てしまう。音楽を創ること、またそれを伝え、広めることに関するハードルが極端に低くなり、場合によっては恐ろしいほど安易に、かつ即座にある種の達成感や充足感が得られてしまいます。インターネットの覇権を争う企業や技術はその傾向を加速させることには貢献こそすれど、それが本当は、もしくは将来的には何を意味するのかを立ち止まって一人一人に考えさせる機会は与えてくれません。むしろ考えてくれない方が幸せなのです。そんなことをしても彼らは一銭も儲からないからです(笑)。どの時代であっても、自分と向き合う時間や機会、つまり「内なる声」に耳を傾けてそれを具現化するきっかけや習慣は自分で作り出すしかないのですね。
Do you know what you’re doing?(根拠とプランBを持つこと)
「内なる声を聞く」と言えば、僕は気に入っている英語の言い回しに、”know what you’re doing”というものがあります。「自分が何をやっているのかきちんと理解する、分かる」ということは、当たり前に大事な事でありながら、もっとも見失いやすい事でもありますよね。「自分の行動を理解する」というとイコール、より行動を抑制が効いたものにすること、さらに言えば慎ましく控えめにすることのように聞こえますが、僕はそういう風には解釈していません。抑制が効いた行動であれ、大胆もしくは無謀な行動であれ、本人がその「裏付け」=「その根拠となる自分なりの確信と、行動が裏目に出た場合のバックアップ(救済策)や代替案(プランB)」を持っていることが大事なのです。逆にその二つをしっかり持ってさえいれば、自分の意識がいわゆる「現実歪曲フィールド(Reality distortion field)」(ウィキペディア)の領域に突入していたとしても、制御が出来るのではないでしょうか。
自分があえて現実を捻じ曲げ逆らっている、もしくは現実とは別の、想像上の世界(理想)を設定しているという自覚を持って事に取り組むことと、単純に現実世界を理解出来ておらず取り違えている「天然」である(もしくは深刻に病んでいる)こととは結果に大きく開きがあるように思います。しかしながら、現大統領などを見ていると、概ね後者に当てはまるように見える人材であってもそれについていく信者は現れるものだと、脱力してしまうところもあります。(ところで、彼の行動・言動パターンを「『ビジネスマン』特有の損得勘定に基づいている」と解釈する人がいますが、そうではなくて、単にエゴの肥大した勘違い二世なんだと思います。知名度やレベルは違えど、似たようなタイプは沢山いるはずです。それこそ日本にも、笑)
アメリカにいると、自分が何をやっているのか分からず、危機回避の意識も持たない手ぶらの状態でも大きな成功を得るケースも多く見受けられ、またそれをすぐさま英雄視する風潮もあり、その勢いやパワーも侮れないものだなと驚かされることがしばしばですが、厄介なのは、この根拠なき無謀な行動は、(一部の人や地域に何らかの進展や利益をもたらすことがあっても)、常に甚大な被害者や犠牲者を生み出す危険性があることです。例えて言えば、運転免許を持たない子供や免許を取得して間もない人が、人混みの市街地の中フェラーリを猛スピードで、しかも手放しやハコ乗りで運転するような感じでしょうか。それでは事故が起こらない方がおかしいですよね。
僕は大胆なアメリカン・ドリームを夢見ることも悪くないと思うし、耳障りの良い事ばかり唱えるリベラリズムには大いに違和感を持っていますが、他人から搾取したり誰かを巻き添えにすることに対してあまりに鈍感で独善的な考え方や、他人の犠牲ありきで事を強引に進めようとする傲慢さに遭遇すると、いつもこう問わざるを得ません。『You don’t know what you’re doing, do you?(お前、自分が何をやっているか分かってないだろ?)』こう聞かれて納得の行く返事を出来る人はまずいないです。分かってなくてそういう行動をしているのですから(笑)。
現実との距離や影響力を考慮しながら「内なる声(ビジョン)」に従って現実からの飛躍を図ること。他人を犠牲にすることなく、世の中を前に進めようと工夫すること。これはとても力量の問われる技ですが、アーティストやそれこそ『ビジネスマン』には、この”良性”の「現実歪曲能力」が必要なのではないかと思う次第です。
(ちなみに、「現実歪曲フィールド」という言葉でよく引き合いに出されるスティーブ・ジョブスがこの良性のものを持ち合わせていたのか、かなりの部分単なる自我や独善的な性格から来たものだったのかは、当然ながら僕はよく分かりません。)
これまでのリリース曲を徐々にアップしています
SoundcloudにDark Model『Saga』、OE『New Classics Vol.1 & 2』からの曲を徐々に、かつランダムにアップロードしています。各アルバムのプレイリストを作ったので、僕のSoundcloudのアカウントをフォローして更新をチェックして頂けると嬉しいです。もちろん最終的にはCDを購入したり、各種配信サービスを利用して聴いて頂きたいですが、作品の内容に触れるきっかけとして是非活用して下さい。
OE『New Classics Vol.1』(解説)
OE『New Classics Vol.2』(解説)
Dark Model『Saga』(解説)
第17回インディペンデント・ミュージック・アワードの審査員を担当します
今年「ダンス/エレクトロニカ」部門で賞を頂いた米インディペンデント・ミュージック・アワード、次回は審査員として参加させて頂くことになりました。審査員には他にトム・ウェイツ、ロバート・スミス(ザ・キュアー)、トッド・ラングレン、リー・アン・ウォマックなどが含まれています。楽しみですね。