OE(オー・イー)名義でのアルバム「New Classics Vol.1 & 2」のリリースにちなんで、僕タツヤ・オオエのインタビューを企画しました。外部のメディアではもちろん、このブログでもこれまであまり触れたことのない、突っ込んだ内容も披露していると思います(特に後半)。今回を皮切りに、週2回のペースでアップしていきますので、これから5回分の投稿をどうぞお楽しみ下さい。
インタビュアーはアメリカで音楽からアート、ファションなどの執筆活動を行っている、旧友のDavid P君です。彼は日本語も堪能なため、今回は日本語でインタビューを行い、そのまま掲載しています。質問内容と編集は彼に全面的にお任せしました。
OE(オー・イー)について
デ: では、今日は夜中のラジオみたいに深いところを突っ込んでいきますので、よろしくお願いします。発売日いつでしたっけ?(笑)
オオエ: 2018年の4月20日です。
デ: 僕は皆さんより先駆けて、もうすでに聞かせてもらいました!!今回の2枚組、すごく楽しく聞かせていただきました。個人的には、黒いジャケットのVol.2がとても面白かったです。
オオエ: ありがとうございます。
デ: 早速ですけど、今日僕は、オタクな質問はしませんので(笑)。例えば、機材は何使ってますか?とか、どういう風に音楽作ってますか?とか、そういうのはあまり面白くないので、一切聞きません!!
オオエ: はい、はい(笑)
デ: では最初の質問ですけど、今回2枚組にしようと思ったのはなぜですか?
オオエ: 最初は1枚のつもりだったんだけど、1枚分が完成した時点で、OE(オー・イー)ってのはやっぱりコンセプト的にCaptain funkやDark Modelには入り切らない、もっと自分のパーソナルな面とか、「第三の創造の余地」というかみたいなところで捉えているので…。
デ: ほうほう。
オオエ: 名義一つ分といっても、やっぱりそれはそれで守備範囲が広いんですよ。
デ: うんうん。
デ: 僕は「Director’s Cut」から始まったというか聴き始めたんですよ。で、うわっ、これおもしろいなぁと思って。余談ですけど、最初聴いた時に日本人が作ってるって思わなかったんですね(笑)。で、その後「Here and You」を買って聴いて。「Physical Fiction」は売り切れてて買えなかったんですけど。過去のOEの作品は、この名義で大友良英さんやアートディレクターのタナカノリユキさんと一緒にお仕事されたものも含めて、要は実験的な感じの作品が多いように思っています。
「今」の自分の視点でOEを
デ: そこで、今回のこの2枚組のアルバム。まぁ、これまでの作品の「復元」とか「復刻」じゃなくて「今を伝えること」みたいな感じで解釈していいのかな?そんなことを「Findings」でもタツヤが書いていたように思うんだけど。そこらへん、詳しく聞いてみたいところではあるけど?
オオエ: うん、制作してから10年以上も経ってる曲も入っているので、今の若い人っていうか、僕のまた別のプロジェクトのDark Modelのリスナーも含めて、今現在進行形のエレクトロニック・ミュージックを聴いてる人は、OEをあまり聴いたことがないと思うんだよね(笑)。昔からのファンの人は聴いたことがあるかも知れないけど、でもそのファンの人達が今、何をしててどういう音楽を聴いてるのかってのは分からないし、OEを始めた2002年から現在までに、自分の方もかなりクリエイティブな面で、あとミュージシャンとしてとの考え方も変化してきている訳ですよ。
デ: うんうん、そうだよね。拠点も日本の東京からアメリカのニューヨークに移したわけだしね。
オオエ: そうそう。で、そういう側面も含めてやっぱり「今の自分の視点」「今の自分の感性」でOEを見直したらどうなるかなぁ、と思って。で、実はそういう風に考えるようになったのも、去年Dark Modelの「Saga」っていうセカンド・アルバムを作り終えて少し経ってからなんだよね。
デ: 「Saga」ね、すごい良かったですよね。
オオエ: あー、ありがとうございます。
デ: すごく早い制作ペースだよね。
オオエ: うん(笑)。ところで、考えてみたらDark Modelの中にもOE的な側面ってのはけっこうあるんですよ。
デ: うんうん。
オオエ: 原型としてはもちろん、Captain Funk的なダンスミュージックっていうのかなぁ、ビートなり音の太さや強さ、みたいなのがDark Modelの音楽の要素にもあるんだけど、ああいうクラシカルなものとか、割とその、「映像の見える音楽」というコンセプトはOEの時から始まってるんだよね。だから、そういう意味で言うと、Dark ModelのコンセプトはOEと接点があるなぁと前から思ってはいたんだけど、OE自身を見直すっていう機会が中々なかった。その後Dark Modelを2枚作ってみて、ようやくそういう(OEを見直してみようという)発想が生まれたというか、浮かんできて…。じゃあ、今捉え直してOEをもう1回リメイクするとかリニューアルしたらどうなるか、と思ったのが、去年の夏ぐらい。
で、そのときにさっきも言ったように、OEを今リアルタイムで聴いてる人は、ほぼいないというか。いたとしても昔の音源を持っていて今も聴いてくれているか、Youtubeあたりに載っかっている音源をたまたま聴いて知った、とかだと思うんですよ。だからCaptain FunkやDark Modelを作っているタツヤ・オオエっていう人間に、また別の側面があったということもあまり知られて無いんだろうと。
デ: なるほど。
3つの「パズル」のピース
オオエ: 1人のクリエイターにはさまざまな側面があって、まあ言ってみれば「パズル」が色々あるわけでしょ? Captain Funkのパズルのピースを理解していた人が、Dark Modelの音楽とどこまで繋げてそれぞれのピースをはめ込んで聴いてるのかは、知るよしも無いわけですよ。僕の中ではその3つのパズルというか、ピースがあるっていう中で、その3つをきちんと見せていくなり、3つをきちんと発表していくことでタツヤ・オオエが完成するというかね。みたいな考え方がどっかにあったのが、ようやくそのDark Modelの「Saga」っていうアルバムを去年作り終えたことで、パズルの完成ってわけではないけど、パズルをより詰めていくっていう作業に入りたいなぁ、入り込める時期に来たんだなぁ、みたいな風に思ったんですよ。
デ: 「パズル」ね、それはよく分かる。
オオエ: さっき言ったようにリスナー側の事情もあるけど、僕自身の心境の変化もあって、リリースから時間が経つと、自分の作品をかなり客観的に見られるようになって、今だったらこうブラッシュアップしたいなみたいな部分が出てくるのね。ただ、これは制作してから15,6年経ったからであって、例えば、Captain Funkの「Heavy Metal」「Heavy Mellow」を作った2007年頃、つまり「Here and You」(2002年リリース)の5年後にOEを見つめ直すというのは、ちょとまぁ、考えられないだろうし、あとDark Modelのアイデア固めに夢中になってる時にOEを作るのは難しかっただろうし。でも、こうやって時間が経つとかなり客観的に見られるのね、自分の作品をね。変な思い入れを持たなくなるというか(笑)。
それは多分、日本を離れたことも大きくて。もし今もずっと日本にいて、同じ家に住んでいたら、環境が同じだからいくら機材が変わっても、心理的に同じようなところがあるのかもしれないけど。やっぱりアメリカにきて、距離を離れて、当時一緒に仕事をしていた人達や聴いてくれていたリスナーの人達からも物理的には距離ができて、自分のこれまでを客観的に振り返る機会ができたから、OEを再構築するには今がすごくいい時期かなぁ、って思ったんだよね。
デ: ふむふむ。
オオエ: それでまぁ、最初はOEの「入門編」みたいな存在を目指して、割と分かりやすいものを目指したほうがいいと思って、アルバム1枚だけを出そうとして作ってたんですよ。で、作ってたら、そもそもOEってのは、パズルの中で言うと今は第三のパズルにあたるから、クリエイティブな創造的な自由を残しておくためにOEを作ったという意味では、その名義の意味をもっとはっきり内容に打ち出すべきだと思った。
デ: 名義の意味というと?
オオエ: OEっていうのは、1番わがままをやっていいプロジェクトだと自分では思っているのね。Dark ModelにしてもCaptain Funkにしても自由にはやってるけど、ルールは一応決めてあるわけ。音楽的なルールをね。なんかスポーツのルールみたいなものでね。だからそこからはみ出ちゃったというか、そこから漏れたもので、さらに自分がやりたいところの「創造的な自由」っていう意味で言うと、OEはもともと結構(守備範囲を)広げていた。ギターやピアノ、オーケストラ楽器をフィーチャーした音楽とか、自分でヴォーカルを取った曲とか、果ては「これは音楽なの?」と言われそうな、ミュジック・コンクレートとかノイズにカテゴライズされそうな音楽までね。もちろん、「エレクトロニック・ミュージック」の範疇で音楽を作るというのは、常に意識しているけど。
で、その広げている部分をきちんと紹介するためには1枚じゃちょっと入りきらなかったなぁみたいなのがあったのでね。1枚作ってから、本当にこれだけでいいのかなぁ、あれ?これ実はOEの半分の側面しか出してないなぁ、みたいなのがあって、もう1つの方をじゃあアルバムもう1枚作れるボリュームがあるかなぁって考えてたら、それはそれで結構ボリュームがあって、これはもう、2枚に分けてVol.1, Vol.2という形で出してもいいんじゃないかなぁて思って。
デ: それぞれ18曲入りっていう、ボリュームがまずすごいよね。しかもそれを同時に作ってリリースしちゃうっていう。
オオエ: それぞれのリリースの時期をずらしたりすると、どっちの作品が良かったみたいな先入観がついちゃうでしょ。聴いてる方も。だから同時に出して、まぁ、好きな方を聴いてもらえばいいし、自分としては両方どちらもOEですよっていう新しい紹介版みたいな感じになるかなぁと思ったんだよね。