引き続きDark Modelのニューアルバム「Saga」についての解説です。Vol.1、Vol.3、Vol.4 も併せてお読み下さい。
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ただ、僕の仕事は音で自分の思いを表現することですから、このアルバムを言葉で理路整然と説明すべきものはないと思っていますし、それ以前にそんな器用はことは出来ません(笑)。だからといって、歌詞のない音楽を「音で感じて下さい」の一言で済ますぶっきらぼうなアプローチでは、このアルバムの存在意義を薄めてしまう気もするので、多少の解説、バックストーリーを紹介する必要はあると考えています。以下に書くのは理屈の通った説明というよりも、「アルバムを作りながら、また作る期間中に考えていた事のまとめ」位に受け止めて下さい。
Dark Modelというプロジェクトの音楽的なコンセプトについて
名前からしてダークで世紀末的な要素が強い印象を受けると思いますが、基本的には「暗闇から希望を見出す、絶望や地獄を生き抜く」という、モティベーショナルな(元気づける、鼓舞するための) 音楽だと考えています。暗黒一辺倒で皆さんを暗闇に引き込んで終わり、が主旨ではありません。
ですので、今回のアルバムにも”Rage and Redemption(訳すとすれば「怒りと懺悔」)、”Inferno Suite(地獄絵巻組曲)””Danse Macabre(死の踊り)”のような「暗黒・地獄サイド」と、”Prelude”, “Survivors”, “Dawn of Resurrection(復活の夜明け)”のような「希望サイド」の曲、また”Storm Goddess(嵐の女神)”の様に、1曲の中に「混乱と希望」が現れる曲も含まれています。Dark Modelの音楽を「Music Narrative(音楽の物語)」と銘打っているように、アニメーションや映画、小説を楽しむように、楽曲それぞれのストーリー、さらには1枚のアルバムのストーリーを楽しんでもらいたいと考えながら一つ一つの曲を組み上げていきました。
なぜ「Saga(聖戦)」なのか?
タイトルを「Battle」や「War」としないで「Saga(聖戦)」としたのは、戦いの動機として愛国心や組織への忠誠心ではなく、「血」「血族(家族)」や「信念」「神」といった、もっと人間にとって根源的で、本能的な部分、あるいは神聖な部分に着目しているからです。WarやBattleにもそういった意味合いが含まれているかも知れませんが、個人的には「為政者・首謀者の意志で”やらされる”、一定のルールとモラルに則った戦い」というイメージがあるのです。戦争は負けても誰か(多くは為政者)のせいに出来るかもしれませんが、聖戦は絶対負けるわけにはいかないし、負けても責任転嫁は出来ない。ダイレクトに「己の存在と、己が信じているもの」に関わる、アイデンティティとの闘い、僕は聖戦をそう捉えています。
怨念のこもった血族同志の敵討ち・仇討ちも、テロリストのジハードも、ギャングやマフィアの抗争も、もちろん決してこれらを肯定はしないものの、人間が人間以前に動物である以上、こうした種や血の保存や繁栄のための衝突・競争は永遠になくなることはないでしょう。大事なのは人間として出来ることを駆使して、それが極端なもの・暴力的・破壊的なものにならないようにするか、その本能、人間の性(さが)をいかに建設的なエネルギーに転化するかだと思います。実際我々の周囲にある文化やビジネス活動一つ取っても、血と信念を守るために死に物狂いで「平時を」闘い抜いた人々の遺産に負っていることが非常に多い。人類はこの「血」と「信念」といった根源的なアイデンティティを日常的に確認し、身内や仲間同士を鼓舞することで、文明を発展させ、社会全体を前に大きく動かして来たという歴史があります。(良かれ悪しかれ、アメリカという国はそれを分かりやすい形で体現していると言えるでしょう。宗教はもちろんのこと、エンターテインメントから不動産業までよく見られるファミリー・ビジネス、そして(その弊害を含んだとも言える)昨今の政治的混乱など、この国に住んでいて上記のことを意識しないことは一日たりともありません。)
Unleash your inner hero(心の中のヒーローを解き放て)
僕が着目したいのは、そういった平時にも潜在的に(もしくは顕在化はしているが生産的な形で)存在する、根源的なアイデンティティ意識としての「血へのこだわり、信念」です。そうしたものを守り、日々の闘いを生き抜こうとする人達のためのテーマ・ミュージック、応援歌としてこのアルバムが聴かれることを希望しています。
もちろん、特定の民族や宗教、戦争に肩入れする意図は全くないので、あまり込み入った解釈を差し引いて、リスナー個人にとって「自分がヒーローになれる音楽、自分を鼓舞する音楽」として聴いて頂ければ十分嬉しいです。上記の様な死に物狂いの闘いを迫られる瞬間、意識する瞬間は今の日本の現実社会には少ないかも知れませんが、たとえ「中二病賛歌」であっても、それはそれでいいのではないかと思います。そういった意味を込めて、キャッチコピーを「Unleash your inner hero(心の中のヒーローを解き放て)」としたのです。
次回は「Saga」のアートワークについてお話をしたいと思います。