Dark Modelのファースト・アルバムのアートワーク制作に協力してくれたアートディレクター、リチャード・B・ロバーツ氏をインタビューしました。彼の独創的な作風はどこから来るのか、これまでキャリアの軌跡、彼の職業倫理観まで、クリエイターのみならずインパイアされるであろう興味深い内容となっています。
イギリス出身で現在は米国ウィスコンシン州ミルウォーキーを活動拠点とする、才能あるアートディレクター/デジタル・アーティスト、リチャード・B・ロバーツ氏のインタビューを行う機会に恵まれました。既にご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、彼はDark Modelのファースト・アルバムのアートワークのために僕のチームと一緒に仕事をしてくれました。Dark Modelの持つ世界観に、彼がビジュアルの側面からのクリエイティブな深みを加えてくれた事を感謝しています。彼のオリジナルな作風はどこから来るのか?また需要の多いアーティストとして、彼は自分のパーソナルな作品とクライアントのための作品とをどう区別し、どういった意識で取り組んでいるのか?彼がここで答えてくれている内容はDark Modelのリスナー、若手アーティスト、そして願わくば彼の将来のクライアントを含めた、読者皆さんにとって大きなひらめきを与えてくれるだろうと信じています。
(これはTatsuya Oe オフィシャルサイト内英語ブログの翻訳版です。原文)
Richard B Roberts オフィシャル・ウェブサイト: https://www.richardrobertsstudio.com/
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これまでの経緯
あなたのバックグラウンドを教えて下さい。デジタル・アートを作ることにいつ、そしてどのように興味を持ったのですか?アートディレクターとして自分のスキルを磨くためにどういったことをしましたか?
かなり若い頃、私はビデオゲームにとても熱中していて、様々なテレビゲームのグラフィックやアートワークを見るのが大好きでした。この手のアートの作り方を学ぶことに触発されつつ、他の種類のデジタル・アートにも触れるようになったのです。そういった「インスピレーションの連鎖」が始まって、さらに良いもの、さらに美しくリアリスティックなアートを作ることに夢中になっていきました。
アートディレクターとして、クライアントと直接仕事をする時に注意すべき点は沢山あります。私はクオリティ第一主義で、自分とクライアント双方が100%満足して終えることが出来るようなプロジェクトを引き受けることが絶対必要だと信じています。また新しいソフトウェアやテクニックを学ぶことに関しては常にオープンマインドでいます。映画、本やマンガを含めて、私は様々なタイプのメディアにひらめきを求めます。アートディレクターであることについて最も大事なことの一つは、コンセプトを肉付けしそれらを美しいアートの形に仕上げることです。辛抱強く、心をオープンにして、創造性をフルに働かせなくてはいけません。
Ice Passage
インスピレーションについて
僕があなたの作品のファンだということは知っていると思います。あなたの作品は映画的であるだけでなくシュールレアリスティック(超現実的)で、作品の幾つかはあなたを「近未来のサルバドール・ダリ」のように感じさせる部分があります。具体的には誰に影響を受けましたか?どういったものからひらめきを得ますか?
サルバドール・ダリは間違いなく私の大好きなトラディショナル・モダンのアーティストの一人です。私は存在しないものを創る、あるいはダリの手法になぞらえて言えば、現実の境界をねじまげることが好きです。私がそれ以上にインスパイアされるのは現代のデジタルアーティストや映画芸術、3D技術などですね。私はSF映画が大好きなのですが、フェイバリットな映画監督を挙げるとすればリドリー・スコット、ニール・ブロムカンプ、ギレルモ・デル・トロ、JJ エイブラハムズ、クリストファー・ノーランです。彼らの映画の多くで使われているテーマやビジュアルイメージには本当に触発されますし、そういった映画や映画芸術についての本も収集しています。物質的なインスピレーションという点では、これらはとても大きい存在です。また、Imagine FXのような雑誌で採り上げられるデジタル・アーティストからもしばしばひらめきを得ます。
Give Me My Gold Leaves!
あなたは大の映画ファンですよね。どういうジャンルや監督に特に興味がありますか?フェイバリット・ムービーは何ですか?
前に述べたように、SF映画と近未来的な映画が好きです。大好きなのはニール・ブロムカンプの「チャッピー」「第9地区」「エリジウム」です。あとは「エイリアン」シリーズの大ファンで、あのシリーズのストーリーとビジュアルは共に圧倒的な魅力があって、大いに触発されています。またクリストファー・ノーランの映画と、彼が「バットマン」の一連の作品や「インセプション」で使用したビジュアル要素はとても気に入っています。ビジュアル要素で言えば「ブレードランナー」や「トータル・リコール」にもひらめきを得ます。ギレルモ・デル・トロは美しい映画を作り、「ザ・ストレイン」の様な優れたTVシリーズも制作していますよね。
キャリア、職業意識について
今の自分のキャリアを形成する上で最も大きなターニングポイントとなったものは何ですか?
X5 Music Groupのために仕事をし始めた時に、初めて金銭面で自分を養うことが出来、自分のアートのスキルを磨くことに多くの時間を割くことが出来るようになりました。その時が実際に自分でフリーランスのキャリアを開始したスタート地点であり、自分の技術上・クリエイティブ上のスキルを最大限洗練させるように取り組み始めたタイミングです。
あなたはFox、HBO、レオ・バーネット、ディメンション・フィルムズ、 ドリームワークス、アンダーアーマーといったクライアントと多くの仕事をしている一方で、自分のパーソナルな作品も作り続けています。これら二つの側面を意識的に使い分けていますか?またどうやってその二つのバランスを取っているのですか?
意識的に自分のアートの二つの側面を切り分けて考えているのは確かです。クライアントの仕事はとてもプロフェッショナルな意識で取り組んでいるので、クオリティの高い作品を作り、かつ締め切りに間に合わせるためなら、必要であれば一日16時間働くこともあるでしょう。自分のパーソナルな作品に関してはもう少し気楽に考えています。つまり、自分の作りたい時(それはしばしば深夜ですが)に作品に取り掛かり、いったん数日もしくは数週間その作品を放置して、インスピレーションを新たに得てからまた取り掛かるといった具合です。
自分のパーソナルな作品に立て続けに取り組んでいるとそれが頭から離れなくなってしまうこともありますが、大抵はもっと長い時間をかけて発展・洗練させていくことが出来る余地があります。クライアントの仕事は当然ながらもっとタイトなスケジュールで取り組むことになりますね。
Dark Modelプロジェクトについて
僕はDark Modelプロジェクトであなたととても楽しく仕事をさせてもらっています。この我々のコラボレーションについてはどう考えていますか?
私もあなたと仕事が出来る機会を毎回楽しんでいます、というのはコンセプトやアイデアを考える余地が残されている点がとても気に入っているからです。私が今まであなたと一緒に手掛けたDark Modelプロジェクトでの仕事は全て型にとらわれず、創造的な自由さに満ち溢れています。Dark Modelの音楽自体もとても好きですし、それを聴きながらアーティスティックな「ゾーン」に入ることは、その音楽にマッチしたアートワークを制作するのに役立ちます。
Dark Model – First Album (collaboration with Passion Yoko) / Yami
独創的であり続けるために
あなたの作品をクリエイティブで独創的なものにし続ける秘訣を教えて下さい。自分が他のアートディレクターやデジタル・アーティストが違うと思う部分は何ですか?
自分のアートを個性的なものにするために、私は自分の個人的な経験や、些細だが独特なインスピレーションの断片を使い、それらを爆発させて大きなコンセプトに昇華していきます。ひらめきを得るものはそれこそ歌の歌詞だったり、映画の一シーンだったりしますが、それら一つ一つのインスピレーションの源はとても具体的で自分独自のものです。もっと広範囲なアートを作る他のアーティストと自分が違うのはそこだと思います。私はまた、幾分ランダムで漠然とした感じでピンタレストやシャッターストックなどにある素材を検索してみたり、イメージ要素を追いかけてみたりしながらインスピレーションを得ます。後は友人とアイデアのキャッチボールをして「シンクタンク」の場を持ちますね。そこで雪だるま式にアイデアを転がしながら、アイデアをもっと具体的で洗練されたコンセプトに仕立てていくのです。
クライアントとの関係
コミッション仕事(クライアントからの仕事)に関して言えば、あなたはクリエイティブなだけではなく作業がとても早くてレスポンスも良い。クライアントのために仕事をする時、どういった事を心がけていますか?
最も大事なことは適切なコミュニケーションです。私はメールを受け取ったらすぐに返事をするようにしていますし、不明な点があれば常に質問をするようにしています。自分とクライアントがプロジェクトのディレクションに関してきちんと同意できているか確認するためであれば、電話で1時間話をするのも厭いません。私は全てのプロジェクトに100%の努力を捧げるように心がけていますし、クライアントが満足してくれることにも力を注いでいます。双方が満足したという段階に達するまで、私はかなりの時間をかけてプロジェクトを洗練させていきます。
私が自分にいつも言い聞かせているのは、一つ一つのプロジェクトがアーティストとしての私の代表作になり得るものにする必要があるということ、そして自分の創るもの一つ一つに対して、それらを発表することに誇りを持てるようにしなければならないということです。
アートディレクターとして生計を立てるには
(インディペンデントな)アートディレクターとして生計を立てていくことについてあなたの考えを聞かせて下さい。クリエイティブな仕事でコンスタントにお金を稼ぎたいと考えている駆け出しのアーティストの方たちに対して何かアドバイスはありますか?
インディペンデントであることは個人的に大好きです。自分自身が自分のボスになれるということは、クリエイティブな作業においては特に大事ですからね。しかしながら、経済的に独立したアートディレクターになることは簡単ではありません。小さなところからスタートし、一生懸命に仕事をして徐々に規模を大きくしていく必要がある。クライアントを満足させることが大事ですし、それ以前に常にポテンシャルのあるクライアントに連絡を取って仕事があるかどうか問い合わせることも大事です。接触先を増やし、キープすることが極めて大事。また自分のスキルセット(一連の技量)を十分に競争力があり、クライアントが望むレベルに達しているものにしなくてはならないし、自分のスケジュールが詰まりすぎていたり、逆に空きすぎていたりしないように心がけなくてはなりません。
Under Armour – Scorpio
デザイナーズ・ブロックの克服法
もし「デザイナーズ・ブロック(創作上の行き詰まり)」に遭遇した場合、どうやってそれを乗り越えますか?
これは全てのデザイナーに起こることですね。その多くはインスピレーションが有り余ることによって起こります。コンピュータ上でイメージをストックして山積みにする代わりに、映画、音楽、そして時には自然の中にすらひらめきを求めます。自分が行き詰まっていると感じた時に大事なことは、自分の物の見方を変えてみることです。最も良いことは友達からアドバイスをもらうことでしょう。例えば、もしパーソナルな作品で行き詰まりどこに向かえばわからなくなったら、友達に意見を聞いて彼らの提案に耳を傾けることが出来ます。そのことによって、自分の作品とその方向性を新しい見方で見つめなおすことが出来るかも知れない。他の効果的な方法としては、自分が何か大きな作品を思いついたらそれに着手してみて、その後それをフォルダーに入れてしばらく保留してから再び作業に戻ることです。もし今あるプロジェクトで行き詰まっていても、半年後にはものすごく発想が湧いてきて作業が前に進むということもあるかも知れません。
将来の展望
作ってみたいがまだ作れていない作品はありますか?また、長期的なキャリアの目標を教えて下さい。
長期的な目標は自分の小さなデザインスタジオを持って、3D技術とさらにイラストレーションを学んで自分の技術を洗練させていくことです。作ってみたくてまだ作れていない作品というのは特にありません。というのもアーティストとして、作りたい作品を作る能力と自由は持っていますし、実のところ現在進行中の作品が沢山あるからです。私は素晴らしいアイデアを得たらいつでも、すぐに取り掛かるようにしています。なぜならアーティストというものは、ほんの少し時間が経つとすぐに次のアイデアが浮かんで来てしまうものだからです!
時間を割いてくれてどうもありがとう!