OE – Here and You

タグ: ダンスエレクトロニックアンビエントロック。 Categories: OE

新たな分身の誕生

OEとしてのファースト・アルバム。2000年リリースの『Songs of the Siren』のプロモーションとして集中的なツアーを行っている最中、オオエはCaptain Funkとは別に、ソロプロジェクトを新たに立ち上げるというアイデアを思い付いた。電子楽器ではない様々な楽器を多用して(、そしてアカイのサンプラーに頼らず)アルバムを制作した経験を経て、彼の関心は一層オーガニックなサウンドや伝統的な作曲方法を自分の音楽制作スタイルに取り込むことにシフトしていた。

だとすれば、Captain Funkの名義で新しい音楽コンセプトを具現化するのは無理があるだろう。もし出来たとしても、これまでのファンを混乱させるだけでなく、その新しい音楽をしかるべきタイミングで、しかるべきシチュエーションで聴いてもらうタイミングを失うことになる。オオエはそう考え、新たな「オルター・イーゴ」を考案して、次のプロダクションに全力投球することに決めた。

オオエはここで聴かれる収録曲の全てを自分のアコースティック・ギターとキーボードを使って作曲した。ヴォーカルを含む様々な楽器を一つ一つ録音してはオーバーダビングしていくというプロセスは『Songs of the Siren』の制作に近いものがあるが、今回はそれを自宅スタジオで一人で行った。言うなれば、「シンガー・ソングライター・エンジニア」である。

このアルバムで彼は、「ミニマリスト・スタイルのポップ・エレクトロニカ/インディ・ロック」とでも言うべき音楽スタイルを新たに披露している一方で、ここに収録されている歌詞の幾つかも注目に値するだろう。例えば、現代社会の寓話的なストーリーを含む『Sylvan Rot』では、中世のおとぎ話で見られるようなウィットやアイロニーを発見することが出来る。

アルバム・レビュー

キャプテン・ファンクこと大江達也のソロ名義作はクラブミュージックのくびきから遠く離れ、一曲ごとの音楽的強度を一人多重録音&オーディオ編集で追求した、非常に作家性の高いアルバムだ。ロックギター、ヴォコーダー、スピーチソフト、8ビート、イージーリスニング、ライヒ…。身体鍛えまくった音響派プログレがテクノロジーを駆使しまくったら、演ってたのは懐かしいポップスだったツーか。オレはなぜか『2001年宇宙の旅』を思い出したよ。スピーカーの前で正座して聴き通すべし。

(サラーム海上、テレビブロス 2002年5月25日号)

彼の前作Songs of the Sirenをよく知っているリスナーなら、このアルバムを最近2年間で日本から生まれた最もオリジナルで、音楽的に革新的な作品の一つにしている多くの要素に気付くだろう。ビートが中心にあるオオエのCaptain Funk名義でのリリースに比べて、このアルバムはもっと伝統的な楽曲のストラクチャーに依拠している。それと同時に、オオエのスタジオ・ワークのスキルが、このアルバムの収録曲があなたの聞く普通のロックソング以上のものであることを裏付けている。

Japan Beat: The Birth of OE, Metropolis、翻訳)

ダンスカルチャーを通過点として新たな地平に向かおうとする冒険者がまたここに現れた。

(加藤直宏、Remix 2002年8月号)

ライナーノーツ(抜粋)

「CAPTAIN FUNK改め、OEの最新作「HERE AND YOU」は、そうした状況の中での鮮やかで瑞々しい 、そして力強くリアルな解答の一つだ。日本でも屈指の動員力と影響力を持ったDJであるCAPTAIN FUNKはOEと名を変えることで、元服や割礼といった通過儀礼を痛烈で爽快なポップソングに変えた。

ここにある、フォーキーと言って良いほどの自立と内省、そしてリセットによって新たに生まれ変わった、しかし過去と永遠に繋がっている厳しい世界に路み出す勇気と希望は圧倒的にピースフルだ。ここには、言いたい言葉をメロディーに乗せ、物語が進行して行くというソングライトの根元的な強さがある

DJカルチャーからソングライトヘ。こんな物はよくある話だ。歌が作られる理由は様々だが、問題になるのはその強さであり、OEがそれを2002 年の段階で獲得したこと、そしてその歌達が、彼の膨大な音楽的財産と内省の上にありながら、こうして瑞々しく、生まれたばかりのプライトさとハピネスを持って訴えてくることに僕は感動したし、強く共感的なパワーを得た。

このアルパムから始まるOEのこれからの冒険を無条件で支持する。」

菊池成孔 (DCPGRG/スパンクハッピー)

トラックリスト

1. The Glow
2. Rambler and Canter
3. Time Has Told me
4. Unexamined Sam
5. Idle Curiosity
6. Ain’t Knockin’ at Your Door
7. Fickle Hound
8. Dismissed
9. Sylvan Rot
10. Hollow Stone
11. Sleep Will Come

Note: このアルバムの収録曲の幾つかは、新たにミックスされ2018年リリースの「New Classics Vol. 1 & 2」に収録されています。

All songs written, performed, and produced by Tatsuya Oe
Lyrics support by Brett Boyd
Engineering support by Ryota Hayashida
Mastered by Masayo Takise (M’s Disk)
Artwork: Fish Design
Photos: Naoki Ishizaka

ストアリンク

Amazon US (CD)
Amazon JP (CD)

Tatsuya Oe Updated: 6月 28, 2024